研究実績の概要 |
本研究では、琵琶湖に生息する魚類寄生性のウオノエ科等脚類(Ichthyoxenos属)をモデルとして、博物館などに収蔵されている宿主(魚類)の既存自然史標本を調査することで、過去から現在までのウオノエ科等脚類の寄生の有無や分布、寄生率などの変化を明らかにし、寄生生物の絶滅危惧度を評価することを目的としている。 最終年度である2019年度は、前年度までの標本調査でウオノエ科等脚類の寄生が確認された4宿主種を中心に、日本各地の博物館や大学など(国立科学博物館、大阪市立自然史博物館、滋賀県立琵琶湖博物館、京都大学総合博物館、近畿大学農学部、滋賀県水産試験場など)での自然史標本調査を継続した。最終的に、寄生の有無を調べた魚類自然史標本は累計で50魚種、14,000個体を超え、宿主である4魚種については国内に現存する大部分の収蔵標本を調査することができたと考えている。得られた寄生の有無のデータから、宿主魚種ごとに寄生率の時系列変化を見ると、1950年代以前の時代においては数~十数%ほどあった寄生率がどの宿主種においても1960年代後半ごろから0%が続くようになり、1970年代後半の標本から数個体が見つかって以降は寄生が全く見られなかった。また、分布域については、かつて琵琶湖全域で確認されていたが、時代を経るごとに琵琶湖の北部に狭まっていったことが見て取れた。これらの結果は、琵琶湖流域の開発に伴う環境悪化や魚類群集の変遷過程と時空間的に整合していると考えられた。本研究は、琵琶湖のウオノエ科等脚類がすでに人知れず絶滅していることを強く示唆するものであり、知見の乏しい寄生生物の絶滅危惧度を考える上で宿主の自然史標本が重要なリソースとなりうることを実証した。 本研究の取り組みや得られた成果については、日本魚類学会年会や国際シンポジウム等で発表を行った。
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