研究課題/領域番号 |
17K15174
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
富川 光 広島大学, 教育学研究科, 准教授 (70452597)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分類学的研究 / 未記載種 / 系統 |
研究実績の概要 |
本年度は潮間帯を中心とした海域におけるアゴナガヨコエビ科のフィールド調査を行ない,得られたサンプルについて分類学的検討と系統関係の推定を行った. アゴナガヨコエビ属は世界から13種,日本からはアゴナガヨコエビおよびホンアゴナガヨコエビの2種が知られている.しかし,日本における本属の分類学的研究は遅れており,その分類学的検討が課題であった.今回,瀬戸内海沿岸や本州日本海沿岸の潮間帯からアゴナガヨコエビ属を採集し,形態および遺伝子データを用いて詳細な分類学的研究を行った結果,従来アゴナガヨコエビとされていたものの中に複数種が含まれていることが明らかになった.瀬戸内海と日本海の種では遺伝的にも大きく分化していたことから,かなり古い時代に種分化が生じた可能性が示唆された.現在,アゴナガヨコエビのタイプ産地であるロシアのサンプルが得られていないため分子系統学的検討は行えていないが,原記載論文と比較したところ,日本から報告されているアゴナガヨコエビは,ロシアの「真のアゴナガヨコエビ」とは別種である可能性が高いことも明らかになった. 瀬戸内海からはアゴナガヨコエビ科の別属であるミギワヨコエビ属の未記載種が見つかった.本種は頭部の触角洞,咬脚,尾肢などの形質によって同属の他種と区別できることが明らかになった.また,今後の分子系統学的解析に供するため,ミトコンドリアのCOI,16S rRNA,核の28S rRNAなど複数の遺伝子領域の部分配列を決定した.この成果については,近日中に学術雑誌に投稿予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で示した通り,これまで分類学的研究が遅れていたアゴナガヨコエビ属およびミギワヨコエビ属の種多様性が従来考えられていた以上に高いことを示すことができ,大きな進展があった.これらの属の種は形態的に酷似するため,分類が難しいグループであったが,本研究により新規分類形質を見出し,種分類を大きく進めることができた.さらに本研究で進められている遺伝子データの蓄積により,より正確な種分類や隠蔽種の検出が可能になった. 淡水や地下水性の種については,サンプルの収集は進んでいるが,分類学的な検討はまだ行えていない.
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今後の研究の推進方策 |
上記の進捗状況を踏まえ,今後は以下のように研究を推進する. 淡水および地下水性種の追加サンプリングを行うとともに,分類学的検討を進める. 得られたすべての種について,ミトコンドリアおよび核の複数遺伝子配列を決定し,系統類縁関係を推定する. 浸透圧調節器官の機能形態学的解析結果を系統樹上にマッピングし,祖先形質復元によりアゴナガヨコエビ科内で生息環境の嗜好性と浸透圧調節機能がどのように進化してきたのか結論付ける.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,当初の想定より解析サンプル数が少なくなったことによる.発生した次年度使用額については,サンプリングのための旅費および分子系統解析に必要な消耗品,DNA塩基配列を決定するためのシークエンスサービスの利用費用として使用予定である.
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