研究課題
過去数十年という短いタイムスケールで行われた熱帯林伐採は, 数億年という長い進化的な歴史を背景に形成された植物多様性の急速な消失を引き起こし、植物群集の構造を変化させる。本研究では、進化時間スケールを考慮に入れた生物多様性の評価・将来予測を、熱帯林伐採が著しいマレーシアで行うことで、今後マレーシア(ボルネオ)で生物多様性の維持・回復に向けてどのような方法が有効かを検討する事が目的である。本年度は、野外調査、標本輸送、DNAバーコーディングを進めた。野外調査はAi Gasah、Simpang Batang、Takanに設置された4プロット、Silongに設置された1プロットの半分について、プロット樹種の種同定チェックとサンプリングを終えることができた。全部で、717本のプロット樹木の同定チェックを行い、431点の標本を作製した。それぞれに写真を撮影し、DNA抽出のための葉のサンプリング、3点の重複標本の作製を行った。標本輸送に関しては、昨年 10 月から実施された植物防疫の厳密化による標本の輸入問題により手続きに時間がかかったが、無事郵送することができた。送られてきたサンプルをもとにDNAバーコーディングを進めた。予備的な結果ではあるが、現地の研究者によって同定された結果と今回の調査による同定結果を比較すると科レベルで11%、属レベルで31%異なっていた。今後は種同定を進め、地域の植物相をまとめる論文を準備する予定である。また、群集系統解析を通して、誤同定が多様性評価において、どのような影響があるのかを評価する予定である。
3: やや遅れている
これまでを通して、プロット樹種1259個体の同定チェックを行うことができた。しかしながら、16プロットのうちの7.5プロットでしか調査を終えることができなかったため、進捗状況としてはやや遅れている。原因としては、カウンターパートが大きな予算をマレーシア国内で獲得し、本調査のためのスケジュール調整が難しかった点にある。また、植物防疫の厳密化による標本の輸入問題により、手続きに時間がかかった点にある。
研究目的は変えず、解析プロット数を減らすことで時間の遅れを取り戻す予定である。また、前回は日本人2人で調査を行ったが、次回より調査人数を増やすことで、作業効率を上げる予定である。今後は、昨年度サンプリングした個体のDNAシーケンスを行い、その配列を用いて、系統解析、群集系統解析を行い、多様性に影響を与える熱帯林伐採を定量化する。特に、系統樹の不確実性を考慮した解析を行うことで、検定結果の頑健性を確かめる。
当初、マレーシアの研究者を日本に呼んでDNA実験をしてもらう予定になっていたが、都合がつかず日本人の実験補助を採用することにした。やり取りに時間がかかり実験補助採用が遅れた点と招へいのための旅費が必要にならなかった点があげられる。残額についてはDNA解析の遅れを取り戻すために、外注するか実験補助を長期で雇う予定である。
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