動物から酵母のような微生物まで、多くの生物は性フェロモンと呼ばれる物質を使って異性と交配している。このフェロモンとその受容体タンパク質の分子適合性は、種ごとに厳密に保たれており、フェロモンの構造が変化すると受容体とは結合できずに、異性との交配が妨げられる原因になる。それでは、フェロモン分子の多様性はどのようにして生まれるのだろうか? そのメカニズムの手がかりを得るため、平成29年度では世界各地から単離された野生の分裂酵母Schizosaccharomyces pombe (Plus型とMinus型と呼ばれる2つの交配型が存在し、フェロモンを相互にやり取りすることにより異なる交配型間で交配する)の150株において、フェロモンと受容体遺伝子のシークエンス解析を行った。その結果、M型フェロモン/受容体の構造は自然界において厳密に保たれているが、P型フェロモン/受容体の構造は比較的柔軟に変化していることが判った。 そこで平成30年度では、6種類の多型が見られたP型フェロモンに注目し、アミノ酸のわずかな違いによる機能の変化を調べ、各フェロモンにおける交配時の細胞応答の違いを定量化した。これまでの一連の研究成果を論文にまとめ、平成31年1月に米科学誌PLoS Biologyに原著論文として出版した。また本成果は伊豆日日新聞 (平成31年1月24日)、科学新聞 (平成31年2月8日)で紹介され、Science Trends (平成31年3月4日)およびacademist Journal (平成31年3月11日)でも掲載された。それらに加えて、これまでの研究成果を総説として出版した (Microbial Cell誌、Curr Genet誌)。 今後は分裂酵母を使って、フェロモンとその受容体の組み合わせがどのようにして変化するかを実験的に検証したいと考えている。
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