ママコナ属では極端に長い花筒を持つ集団と、それとは逆に短花筒を持つ集団が知られているが、これらがどのような環境の下で進化してきたのか明らかにすることが本研究の目的である。この目的の達成のために1)長花筒と短花筒の集団で訪れる昆虫類にどのような違いがあるか、2)生育地周辺の訪花昆虫相に違いはあるか、3)長花筒集団と短花筒集団はどのようなママコナから派生してきたのか、4)花筒に加えて特化している形質はあるか、の4点について調査を行った。 2022年度は1)鹿児島県の低地でのママコナ属集団の調査、2)DNA資料のサンプリング及びDNA解析を実施した。1)については、鹿児島大学に収蔵されている標本を基に調査を実施したが、現在では生育が確認できなかった。2)については、大阪公立大学の廣田峻氏の協力を得て、東北大学農学部において解析を実施した。 これまでの調査により、長筒花集団である高知県久礼野のシコクママコナ集団では、口吻がトラマルハナバチ(西日本におけるシコクママコナの主たる送粉者)よりも長いスジボソフトハナバチが頻繁に訪花することが明らかとなった。久礼野の集団においても、この長さにマッチするようにその周囲のシコクママコナ集団よりも花筒長が長くなっていた。一方、長野県の高地にあるミヤマママコナ集団では、周囲の集団よりも花筒長が短く、口吻の短いヒメマルハナバチが送粉を行っていた。DNA解析により、長筒をもつオオママコナ、イセママコナ、短花筒を持つ、ヤクシマママコナ、ミヤマママコナ集団はいずれも、シコクママコナのクレードとなり、いずれも同地域のシコクママコナあるいはミヤマママコナ集団から派生したものであることが明らかになった。シコクママコナは、日本各地で、その場所の訪花昆虫相に適応した花筒長を持つものが選択され、分布の端においては、花形態が極端に異なる集団も存在することが明らかになった。
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