研究課題
本研究は、ゲノムワイドな遺伝マーカーを用いることで、東南アジアにおけるアカゲザルとカニクイザルの自然交雑帯がいつ・どのように形成されたのかを高解像度に推定し、その上で、交雑に伴った表現型の進化とその遺伝的基盤を明らかにすることを目的とする。最終年度である平成30年度は、過年度に取得したRAD-Seqデータのバイオインフォマティクスおよび集団遺伝学的解析を行った。集団構造解析を行ったところ、交雑率は、従来認識されていた種の境界付近で、非連続的に、急激に変化することが示された。次に、アリル頻度スペクトラムを指標とする集団史推定を行ったところ、アカゲザルとカニクイザルは、分岐の後、長期間の隔離を経て二次的に接触した可能性が高いことが示された。種間で顕著に分化していた座位について、アリル頻度の地理的変遷を調査したところ、多くの遺伝子座において、アリル頻度は種の境界付近で急激に変化していた。こうした遺伝子座は、常染色体よりもX染色体で高頻度に観察された。一方、ごく一部の遺伝子座においては、アカゲザルタイプのアリルがカニクイザル方向に大きく浸透していることが分かった。おそらく長期間の隔離を経た上での二次的な接触だったため、生殖隔離が発達し、種の境界が維持されたが、一部の遺伝子は適応的にアカゲザルからカニクイザルの方向に浸透したと考えられる。生殖隔離には、常染色体よりもX染色体の遺伝子の方が高頻度で関与した可能性が高い。今後、より高解像度のデータを用いて、生殖隔離および適応的遺伝子浸透に関与する遺伝子とその機能を明らかにしていくことが期待される。また、表現型データとの対応がつくサンプルの数を増やすことで、表現型多様化への交雑の影響を直接的に探る予定である。
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