研究課題/領域番号 |
17K15200
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
後藤 彩子 甲南大学, 理工学部, 講師 (70734680)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 精子貯蔵 / 女王アリ / 受精嚢 |
研究実績の概要 |
女王アリは羽化後まもない時期にしか交尾しないため、交尾後、精子を寿命が続く限り受精嚢の中に貯蔵する。多くの種の女王アリの寿命は10 年以上と、昆虫としては例外的に長寿のため、精子貯蔵期間も約10 年以上と極端に長い。この精子貯蔵能力は極めて特殊であるが、その仕組みを解明した研究は皆無である。 本研究では、生理学的・分子生物学的アプローチにより、精子を保護する側の受精嚢の機能と、保護される側の貯蔵精子の生理状態を明らかにすることで、アリ科女王の長期間の精子貯蔵メカニズムを解明することを目指している。 これまでに、RNA-seq法とin situ hybridization法を組み合わせ、アリ科女王 (キイロシリアゲアリを使用)の受精嚢のみで強く発現している遺伝子12個や、機能は不明だが非常に多く発現している遺伝子を多く発見しており (Gotoh et al., 2017)、これらがアリ科の精子貯蔵に特殊化した機能をもつ遺伝子であると期待している。本研究では、これらの遺伝子の機能を調べるために、遺伝子配列から機能の推定、RNAi法によるノックダウン、タンパク質合成による解析などを計画している。これらの遺伝子はRNA-seqテータを利用してde novo assembly したことにより塩基配列を得ているため、最初にサンガーシークエンスによる配列の確認と全長が得られていない遺伝子についてはRACE法を用いた全長配列の決定をする必要があった。現在、注目している遺伝子の約半分の解析が終了している。 貯蔵中の精子の状態を調べたところ、受精嚢内の精子は交尾後5年経過していても不動化されていた。受精嚢外に取り出すと運動したことから、女王アリが精子のべん毛の機能を保ったまま精子を少なくとも5年にもわたり生存させていることを証明した(Gotoh and Furukawa, 2018)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回注目した遺伝子の塩基配列は、RNA-seq データを利用して de novo assembly したことにより配列を得ているものである。実際の配列がde novo assemblyの結果とは一部異なっており、全長をとるのに手間取ってしまった。 また、貯蔵精子のメタボローム解析については、まだ解析されたことのないサンプルのため、サンプル調製法や機械の設定の条件検討が必要であり、時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
ひきつづき、受精嚢で高発現している遺伝子の全長配列の決定をすすめる。 メタボローム解析では、一度に多くの精子細胞を利用できる方が効率と精度が良いため、より多くの精子を手に入れられるハヤシケアリの女王に材料を変更する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、メタボローム解析を外部委託する予定であったが、解析のためのサンプル調製法の検討のみしか進展しなかったため、委託する予算を次年度に繰り越すことになった。
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