オナガザル科(旧世界ザル類)に属するコロブス亜科は、3-4 つにくびれた特殊な胃をもち、葉食に特化した食性を示す。一方で、同じ科のオナガザル亜科は他の霊長類種と同様に単胃をもち果実食である。近縁な両者が異なる食性を獲得した背景にある分子基盤についての知見は乏しい。本研究では、食物選択に関わる「味覚」、葉に含まれる毒性物質を分解する「解毒」に着目し、葉食適応を果たしたコロブス亜科がどのようにこれらを適応させたかを解明することを目的としている。 テングザルの前胃内容物から分離された新種の乳酸菌について学術誌に投稿していた論文は、産休期間中に修正再投稿し、昨年度末に受理された。本年度は、冷凍保存されていた野生テングザルの前胃内容物からの本新種乳酸菌の分離培養に成功し、その生理化学性状や酵素活性について、飼育個体由来株との比較を行った。また本乳酸菌だけでなく、タンニン分解菌としてしられるストレプトコッカス属の菌についても飼育・野生どちらの個体からも分離されたため、その生理化学性状やタンニン分解酵素タンナーゼの酵素活性を比較した。これらの成果について、日本霊長類学会で発表を行い、現在は投稿論文の執筆中である。 消化管共生細菌がもつ解毒機能の解析については、青酸配糖体アミグダリン含有培地での培養、培養後の培地の成分分析を行った。高速液体クロマトグラフィー質量分析装置を用いた化学分析や、ガス検知管を用いた発生ガスの定量的測定も行った。 これまでに、青酸配糖体アミグダリンを含むβグルコシドを受容する苦味受容体TAS2R16の機能解析を行っており、今後は、コロブス類の消化管共生細菌の解毒機能結果と合わせて考察し、葉食適応したコロブス類の苦味・解毒機能についてまとめる予定である。
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