睡眠は基本的な生命現象のひとつであるが、覚醒状態から睡眠へ至る過程である入眠期のメカニズムには不明点が多い。特に、入眠期は短時間に多彩な生理学的変化が生じるが、既存の基準による脳波判定では、入眠感の水準が十分反映されない可能性があり、より詳細な基準と多角的な測定によって入眠期の生理特性を捉える必要がある。本研究では詳細な脳波段階推移と自律神経指標および前頭の脳活動指標の変動から入眠期を検討した。 研究1では、比較的若い世代の男女を対象に、日中機能を測定するための反復睡眠潜時検査(MSLT)の手続きを用いて、主観的な寝つきの良し悪しとその際の客観的な睡眠評価について、脳波、眼電図、心電図、筋電図、そして脳機能イメージング技法のひとつである光トポグラフィ(局所型NIRS)を併用して多角的に検討した。質問紙では普段の生活習慣や眠気、心身の健康状態について尋ねた。研究2では、研究1で得られた寝つきの良し悪しと客観指標の特徴について、終夜睡眠での適用や寝つきの良し悪しと終夜睡眠の構造についての検討を行った。 対象者は20~30代の若い世代であったこともあり、寝つきが非常に良い者が予想よりも多い結果となった。それはMSLT基準だけでみると過眠症と診断されるほどの入眠の速さで、若い世代で問題となっている慢性的な睡眠不足なども影響している可能性がある。またそのような者では、寝つきの良し悪しに関する主観的な評価と客観的な評価とが乖離する特徴もみられた。寝つきの良いときと悪いときでの比較では、寝つきの悪いときには入眠と判定されるまでの時間の延長のほかに睡眠段階1や2が増加し、心拍変動解析による入眠前の交感神経活動の亢進と、特定のチャネルの酸素化ヘモグロビンが多くみられた。NIRS指標には個人差が大きいものの、寝つきが悪いときには前頭部の過覚醒が関わるという仮説を一部支持する結果であった。
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