研究課題/領域番号 |
17K15209
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
矢野 憲司 国立研究開発法人理化学研究所, 革新知能統合研究センター, 訪問研究員 (30791040)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イネの登熟 / ゲノムワイド関連解析 / 分子育種 |
研究実績の概要 |
本年度は、GWASを行う集団の充実を図ることを目的に、これまでゲノム配列データが得られていなかった133品種を次世代シーケンシング解析に用い、ゲノムワイドな多型を検出することに成功した。来年度は、これまでにゲノム配列データを取得している198品種に加え、133品種も形質測定に使用する予定でいる。さらに、これまでにゲノム配列データを取得している198品種に関しては、本年度温室で栽培し、乳白粒の発生率を測定した。測定した乳白粒の発生率を用いて、GWASを行った所、有意なシグナルが複数検出された。有意なシグナルが得られた領域に関しては、LDブロック解析、変異ブラウザ等の多型の機能アノテーションに基ついた解析を行った。この解析に基づき、候補遺伝子予測を行った所、検出された複数の領域の内、1つの領域で有力な候補遺伝子を同定することに成功した。 また、本年度の日本育種学会において次のような内容で報告を行った。特定の集団を用いてGWASを行う際、調査集団のゲノム情報と形質データが必要となる。この際、形質データは多くの場合、圃場において手作業でひとつずつ調査する必要があり、多大の労力が必要となる。その一方で、これまで育種家や研究者は様々な形質について膨大な形質データ(レガシーデータ)を蓄積している。そこで今回発表者らは、イネのレガシーデータを利用して、新たに形質調査することなくGWASが可能か調査を行った。その結果、糯性/粳性を決めるローカスとしてwaxy、ふ先の色に関わるアントシアニン合成酵素をコードするOsC1などのすでに過去の研究で報告のある遺伝子を同定することに成功した。さらに、心白米の発生率や種子幅の長さを用いたGWASにおいて、これまでに報告のないゲノム領域も新規に同定することができた。これらの結果から、レガシーデータを適切に用いることで、GWASにより農業的有用な遺伝子領域を同定、単離することが可能であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要で述べた通り、本年度は、レガシーデータを利用したGWASによりイネの登熟に関わる領域の同定に有効であることを明らかにした。レガシーデータを利用したGWASは、当初の計画になく、本年度新たに発案した解析であった。検出された領域に関して、今後解析を進めることで、イネ登熟に関わる新規の遺伝子を同定できると期待できる。 さらに、本解析で選抜された候補遺伝子について、本年度は、形質転換体による機能の検証を行った。その結果、予測通り胚乳形質に違いが見られた。当初の計画では、候補遺伝子を予測するところまでが今年度までの計画だったため、すでに当初の計画以上の結果が得られている。現在は、他の候補遺伝子に関しても、機能を検証するための形質転換実験を行っている。 以上の理由により、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、これまでにゲノム配列データを取得している198品種に加え、133品種の胚乳形質を計測し、複数年の胚乳形質データを取得する。これらを用いてGWASを行い候補領域の再現性を確認する。信頼性の高いGWASシグナルが確認されれば、変異ブラウザにより候補遺伝子を予測する。候補遺伝子についてDNA多型がもたらす機能的効果を確認するため、候補遺伝子全塩基配列をクローニングし、クローニングした遺伝子とは異なる配列を持つ品種に形質転換し、表現型に違いが生じるかを確認する。 さらに、形質転換体により胚乳形質に違いが見られた候補遺伝子に関しては、来年度も栽培実験を行い、胚乳形質に対する効果を確認する。 長期的には登熟や胚乳発達に関わる制御系をモデル化し、効率的分子育種を行うことを目的とする。
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