研究課題/領域番号 |
17K15209
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
矢野 憲司 国立研究開発法人理化学研究所, 革新知能統合研究センター, 訪問研究員 (30791040)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | GWAS / イネ / 農業有用形質 |
研究実績の概要 |
本年度は、16th International Symposium on Rice Functional Genomicsと日本育種学会第135回講演会において口頭発表により次のような内容で報告を行った。 これまで複数の要素により構成される複雑なイネの農業形質において、GWASを用いた効率的な遺伝子単利法が求められていた。そこで本研究では、効率的な遺伝子単利法を確立することを目的に、草型を例としてGWAS手法の確立を試みた。イネの草型は、一般に一株当りの穂の数(以下、穂数)が多く小さい穂をつける「穂数型」と、穂数が少なく大きい穂をつける「穂重型」に大きく分けられるが、これまで定量的に評価された先行研究は少ない。そこで本研究では、日本イネ169品種を用いて、8形質(到穂日数、稈長、穂数、穂長、穂軸長、一次枝梗数、二次枝梗数、穎果数)を計測し、草型を定量的に評価することを試みた。そこで、まずこれらの形質を要約した値を得るため主成分分析を行った。その結果、全データの62%を説明する第1主成分が得られた。第1主成分は、因子負荷量から本解析集団の草型を代表する値として適切であると思われた。最終的に、得られた主成分値を用いてゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、草型に関わる遺伝子を同定した。以上の結果から、複雑形質を用いた主成分分析は、イネの草型に関わる遺伝的要因の要約を可能にするとともに、GWASとの統合は、原因遺伝子の同定に有効であると結論付けられた。また、これらのGWAS手法は、様々な農業形質にも応用することが可能であり、様々な作物や果樹を対象とする研究に貢献できると考えられる。以上の成果より、作物におけるGWASを利用した効率的な遺伝子単離法の確立において一定の成果があったと評価できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた通り、主成分分析とGWASによる統合的解析の有効性が確認されたため、複数の要素により構成される胚乳形質にも同手法を応用した。一昨年度までに、異常米や屑米の割合などの複数の形質データを取得することに成功していた。そこで本年度は、得られた形質データを用いて主成分分析を行い、得られた主成分得点に基づきGWASを行った。その結果、有力な候補遺伝子を複数同定することに成功した。そこで、一部の候補遺伝子について、形質転換体による機能の検証を行った。1つの候補遺伝子について着目すると、この候補遺伝子は、一部の品種で翻訳領域に変異があり遺伝子の機能が欠失していることが予測された。そこで、機能型アリルを持つ品種に対して、CRISPR-Casシステムを用いて、変異を生じた個体を作出した。さらに、この遺伝子の過剰発現体も作成した。これらの系統を高温環境下で登熟させ、胚乳形質を調べた所、機能型アリルを持つコントロール個体に比べ、機能欠失型アリルを持つ個体で正常米の割合が低下することが確認された。また、この遺伝子の過剰発現体では、コントロール個体に比べ正常米の割合が増加していた。これらの結果から、この遺伝子が高温環境下における登熟性に関わっていることが確認された。現在は、他の候補遺伝子に関しても、機能を検証するための形質転換実験を行っている。 以上の理由により、当初の計画通りに進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
形質転換体により胚乳形質に違いが見られた候補遺伝子に関しては、来年度も栽培実験を行い、胚乳形質に対する効果を確認する。また、今回同定された候補遺伝子がデンプン合成の制御に関わっていると予測されたため、形質転換体の胚乳からRNA を抽出し直し、デンプン合成関連遺伝子の遺伝子発現変動をqRT-PCR により確認する。 また、すでにイネ96品種の胚乳を用いたRNA-seq 解析により、遺伝子発現情報は取得しているため、GWAS により得られた候補領域内で発現変動を示す遺伝子を調べることで、これまでの解析で同定されている候補遺伝子に発現情報を付与すると同時に、新たな候補遺伝子を選び出し、リストを充実させる。さらに過去の報告から、ダイズの登熟において、eQTL 解析が遺伝子発現制御ネットワークの構築に有効であることが知られている。そこで、本研究課題においても同様の手法によりeQTL 解析を行い、乳白粒の発生に関わる遺伝子制御ネットワークを作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
形質計測結果のデータ整理として謝金を計上していたが,今年度はサンプル数が少なかったため,研究代表者自身で行った。そのため,データ整理補助および資料整理補助の謝金は0となった。また,英語論文についての校正費は今年度末までに投稿準備が完了しなかったため,計上しなかった。次年度は、英語論文の校正費と論文掲載料に使用予定である。
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