研究課題/領域番号 |
17K15210
|
研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
殿崎 薫 横浜市立大学, 木原生物学研究所, 特別研究員(PD) (20749494)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 胚乳発生 / ポリコーム複合体 / イネ / インプリント遺伝子 |
研究実績の概要 |
これまでの解析から,イネのPolycomb repressive complex 2(PRC2)構成因子の1つであるOsEMF2aは,初期胚乳発生,特に胚乳の細胞化の過程に関わっていることを明らかにしてきた.そこで本研究では,イネ胚乳におけるPRC2が制御する胚乳発生メカニズムを明らかにすることを目的としている. PRC2標的遺伝子を同定することを目的とし、前年度までにOsemf2a変異体における細胞化しない胚乳のRNA-seq解析を実施し,Osemf2aの胚乳で発現変動する遺伝子を抽出した。更に今年度は、イネ胚乳におけるH3K27me3のChIP-seq解析を実施した。Osemf2a変異体で発現が上昇し、H3K27me3の修飾の見られる遺伝子は3,612個あり、これらの遺伝子はイネ胚乳におけるPRC2の標的遺伝子であると考えられた。シロイヌナズナにおける先行研究からMADS-box転写因子は、胚乳の細胞化に関わるPRC2の標的であることが報告されている。そこで、今回同定したPRC2標的遺伝子のうち、細胞化タイミングに相関が見られた3つのMADS遺伝子に着目し、その機能解析のためにCRISPR/Cas9による変異体の作成を進めている。また、Osemf2a変異体と野生型イネとの相互交雑による表現型観察と、OsEMF2aの対立遺伝子特異的なシークエンス解析から、OsEMF2aが母親由来の対立遺伝子からのみ発現するインプリント遺伝子であることを明らかにした。更に、Osemf2a変異体において、受粉せずに子房が肥大する表現型が観察されたため、組織学的な観察を実施したところ、受精せずに胚乳核が分裂を起こす自律的胚乳核分裂が観察された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り進行しており、本年度はイネ胚乳におけるChIP-seq解析を完了し、イネの胚乳におけるPRC2標的遺伝子を多数同定することができた。中でも、細胞化の制御に関わる可能性の高いMADS遺伝子を絞込むことができ、CRISPR/Cas9による変異体の作出に取り掛かることができた。また、OsEMF2aがインプリント遺伝子であることを明らかにすることができた。加えて、emf2a変異体において自律的な胚乳核分裂が見られることから、イネPRC2が、胚乳発生だけでなく受精前の胚乳核分裂を抑制する機能を担っている可能性を示すことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
細胞化の制御に関わる可能性の高いMADS遺伝子の変異体の機能解析を実施する。加えて、その他のPRC2標的遺伝子やOsemf2a変異体で発現変動する遺伝子の機能からイネPRC2 が制御する初期胚乳発生のメカニズムを明らかにする。また、Osemf2a変異体において自律的胚乳核分裂が観察されたため、自律的胚乳核分裂の生じた子房におけるトランスクリプトーム解析を実施することで、胚乳核分裂に関わる遺伝子の発現が見られるのかを明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していたChIP-seq解析を他の関連する研究予算から支出することができたため、次年度使用額が生じた。 次年度に計画している追加でのトランスクリプトーム解析では、ライブラリー作成およびシークエンス外注費用が必要となるため、次年度使用額と翌年度分助成金を合わせて、計画的に使用する。
|