これまでに、イネのPolycomb repressive complex 2(PRC2)構成因子の1つであるOsEMF2aが,初期胚乳発生,特に胚乳の細胞化の過程に関与することを明らかにしてきた。本研究では,イネ胚乳におけるPRC2が制御する胚乳発生メカニズム解明を目指し、研究を行った。 前年度に行ったRNA-seqおよびH3K27me3のChIP-seq解析から、PRC2に制御され、胚乳細胞化の制御に関わる可能性の高い複数のMADS遺伝子を見出している。そこで、これら複数のMADS遺伝子の変異体を作出し、機能解析を実施した。しかしながら、単一のMADS遺伝子の変異体では、表現型の変化は見られなかった。一方、MADS遺伝子とOsEMF2aの二重変異体系統を作出したところ、通常Osemf2a変異体で見られる異常な胚乳発生を示す種子の割合が顕著に低下する系統が見られた。この結果から、PRC2に制御される胚乳細胞化の調節に関与するMADS遺伝子を見出すことができた。 また、Osemf2a変異では受精せずに自律的な胚乳核分裂が起こることを明らかにしている。自律的胚乳核分裂の生じた子房におけるトランスクリプトーム解析を実施したところ、通常は受精後の胚乳でのみ活性化する遺伝子群の高発現が見られ、イネのPRC2が受精までの胚乳核分裂を抑制する機能を持つことを明らかにした。加えて、Osemf2aの自律的胚乳発生で活性化する遺伝子の中には、デンプンなどの貯蔵物質合成に関与する遺伝子が多く含まれていた。そこで、自律的胚乳核分裂の生じた子房の組織学的観察を行ったところ、自律的に発生した胚乳組織内には、デンプンやprotein bodyが蓄積しており、胚乳の登熟過程に関与する遺伝子も、PRC2に制御されている可能性を示唆する結果を得た。
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