研究実績の概要 |
本研究では耐湿性に深く関与すると考えられている根の表皮側に形成されるアポプラスト(細胞外空間)輸送のバリア機能を失ったイネ変異体 (reduced culm nomber1, rcn1)を用いて根のアポプラストバリアが湿害の回避に果たす役割の解明を試みた。 昨年度、過湿ストレスを受けたrcn1変異体の地下部に蓄積した元素をICP-MS法でイオノーム解析した。その結果、rcn1変異体は野生型よりNaを過剰に根に集積することが分かった。さらに、同じ処理をした根の一部を粒子線励起X線分析を用いて元素をマッピングしたところ、rcn1の根の表皮近くにはFeが過剰に集積することが分かった。 今年度、rcn1変異体の原因遺伝子であるRCN1遺伝子を35Sプロモーターに連結した過剰発現が根のバリア効果を強化する可能性について検討した。イネの過剰発現体を通常、スベリンのバリアができない好気状態の水耕液にて栽培した。この時、RCN1過剰発現体では外皮のスベリン化が強化されることを期待したが、過剰発現体の外皮はスベリン化されなかった。また、過湿ストレス条件下で栽培した過剰発現体が生育を改善することはなく、根の乾燥重量は野生型の15-32%程度と低かった。興味深いことに過湿ストレス条件にある野生型で発達する外皮のスベリン化が、RCN1過剰発現体では部分的にしか形成されなかった。RCN1の過剰発現は外皮のスベリン化を抑制しているようである。 本研究では過剰発現体が十分に外皮を形成することができなかったため、NaとFeの過剰吸収がrcn1の生育阻害の原因であるのかどうかについて回答することができなかった。ただし、RCN1遺伝子の過剰発現が負のフィードバックにより外皮のスベリン化に重要な遺伝子を抑制している可能性があり、外皮のスベリン化の分子メカニズムの解明に重要な材料を得ることができた。
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