研究課題/領域番号 |
17K15219
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研究機関 | 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター |
研究代表者 |
井関 洸太朗 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 生物資源・利用領域, 任期付研究員 (80748426)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ササゲ / 野生種 / 乾燥ストレス / 湿害 / 遺伝資源 |
研究実績の概要 |
ササゲの栽培が盛んな西アフリカでは乾燥ストレスが主な生産制限要因と考えられている。一方、これまでの現地栽培試験では、乾燥ストレスに加えて湿害がササゲの生育阻害要因となることが分かった。そこで、乾燥と湿害の両条件下で安定した生育を示す耐性品種を開発するのための遺伝資源として、砂漠から熱帯雨林まで幅広い環境に自生するササゲの近縁野生種に着目した。本年度、ナイジェリア国の国際熱帯農業研究所(IITA)から受領したササゲ野生遺伝資源56系統それぞれついて、遺伝的均一性を確保するための単粒系統化を完了し、それらを用いた乾燥および湿害耐性のスクリーニングを実施した。前年度に同様の手法で評価した栽培種に対し、野生種ではそれよりも全体的に耐性が強い傾向を示した。この結果にもとづき、乾燥条件、過湿条件のそれぞれ、あるいはその両方に対して対照区と同程度の生育・生理活性を示す系統を選抜した。使用した植物材料は現在の栽培ササゲの直接の祖先野生種と考えられており、栽培種との交雑が可能な種であるため、今回選抜した材料は育種材料として将来的に有望な系統である。また、乾燥と過湿条件に対する根の応答は大きく異なり、根の断面積に対して乾燥条件では維管束木部組織、過湿条件では皮層組織の割合が大きくなることが知られている。従来、両者の応答はトレードオフの関係にあるとされていたが、今回、乾燥および過湿の両条件で安定した生育・生理活性を示す系統の存在が明らかになったことで、従来知られていなかった新たな乾燥、過湿適応メカニズムの解明につながることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレス耐性のスクリーニングは初年度に確立した評価手法を用い、ガラス温室内に設置した長方形の木枠内で対照区、過湿区、乾燥区の処理条件ごとに全系統を同一の木枠で栽培した。ストレス処理の影響が強く現れる播種後4週目にクロロフィル蛍光による光合成活性、SPADメーターによる葉緑素値およびサンプリングによる地上部乾物重を評価し、この3つの指標から耐性程度を総合的に判断した。実験は各3反復で時期を変えて独立した栽培を2回実施した。また、短期間のうちに乾燥条件と過湿条件が生じる実際の圃場を想定し、乾燥→過湿および過湿→乾燥の環境変化処理の実験を行い、同様に耐性程度の評価を実施した。この結果、乾燥ストレスのみに耐性、湿害のみに耐性、および乾燥・湿害の両方に耐性を示す系統をそれぞれに選抜した。選抜した耐性系統ではストレス条件下でも光合成活性や葉緑素値、地上部乾物重が対照区の8割以上の値を維持していた。また、次年度に実施予定のデジタルマイクロスコープを用いた根の形態観察のための予備的調査を行った。従来の知見通り、乾燥条件下では維管束組織が、過湿条件では皮層組織が大きな割合を占めていることが確認され、過湿条件においては二次通気組織の発達も確認された。次年度には今回選抜した耐性および感受性系統を用い、乾燥および過湿条件における根の応答の違いを明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、乾燥および湿害条件における地上部の応答が大きく異なる系統を選抜することができた。次年度はこの材料を用いて耐性に強く関わると考えられる根の応答性の違いを明らかにする。選抜した耐性および感受性系統をスクリーニングと同様の方法で栽培し、処理開始後4週目に地上部の評価を行うとともに根をサンプリングし、デジタルマイクロスコープによる観察を行う。地上部より10cmの位置の根(主根および側根)を切り出し、組織を固定した後、切片を作成して断面の画像データを取得する。画像解析により、断面積に対する維管束と皮層の比率、および二次通期組織の発達程度を評価し、系統間で比較する。これにより、地上部のストレス応答と根の形態的応答の関係性を明らかにする。また、耐性を示す野生系統と栽培系統の交雑を行い、将来的な遺伝解析に向けた材料の作成を進める。これまでに得られた成果を取りまとめ、学会報告および論文化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外渡航費が時期的な価格変動により予定よりも安価となったため。翌年度の海外渡航費の一部として使用する。
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