重イオンビームを一定量以上照射した雄原細胞では、染色体異常があるために核の分裂は生じないが細胞周期は進行し、非還元性の雄原細胞様精細胞を高頻度に形成する。昨年度の成果により、雄原細胞様精細胞が胚を形成しないが胚乳のみを形成する異常胚嚢形成に関与することが示唆された。異常胚嚢形成過程を明らかにするため、まず授粉後に固定した胚珠より胚(卵細胞、受精卵)および胚乳を単離する手法を確立した。単離した胚および胚乳を用いてフローサイトメトリー分析による相対的核DNA量の比較を行ったが、核単離および染色が困難であった。そこで、単離後にヘキストによる染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡にて画像を取得し、胚および胚乳の核蛍光強度の測定を行った。胚と胚乳の蛍光強度の比を調査すると、未照射花粉を授粉させることで形成した胚核の蛍光強度の平均を100としたときに胚乳核の平均は187であった。S期の核も存在していることを考慮すると、胚が2C、胚乳が3Cの核を有していると考えられた。炭素イオンビーム40 Gy照射花粉を授粉させて形成した胚嚢には、卵細胞と思われる細胞と胚乳が形成されていた。従って、切片観察で見られた異常胚嚢が形成されていることが確認された。異常胚嚢において、卵細胞の蛍光強度を100とすると胚乳核は621であった。卵細胞が半数体であると仮定すると、胚乳は少なくとも4倍体以上の核DNA量を持つと考えられる。このことから、雄原細胞様精細胞は胚乳と受精した可能性が示唆された。今後、胚珠培養や胚培養、胚乳培養を行うことで、染色体添加、染色体欠失系統の作出や倍数性育種への応用が期待される。
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