研究課題/領域番号 |
17K15225
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
出口 亜由美 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 特任助教 (20780563)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 花色 / アントシアニン / カーネーション / 次世代シークエンス |
研究実績の概要 |
植物器官の多くではアントシアニンが蓄積する細胞層が限られており,花弁においては,通常,表層(L1)のみに蓄積し,内層(L2,L3)には蓄積しない.本研究では,花色の改変や機能性物質の高蓄積化が見込めるアントシアニンの細胞層別蓄積制御を可能とするために,各細胞層においてアントシアニン蓄積の能否を決定する遺伝子を特定する.花弁裏の白いカーネーション(Dianthus caryophyllus. L)を用いて,花弁三細胞層(向軸面表層,内層,背軸面表層)でのトランスクリプトーム比較から蓄積制御遺伝子の特定を試みる. 本年度は,凍結切片作成およびレーザーマイクロダイセクションによる各細胞層の単離回収の条件検討を行った.しかし,切片作成時の細胞の損壊を解消できず,トランスクリプトーム解析(RNA-seq)に供試できる純度のサンプルを得るに至らなかった.花弁裏の白いカーネーションは花弁周縁部にもアントシアニンを蓄積していない.花弁周縁部と中央部において蓄積色素を比較したところ,アントシアニン蓄積にのみ差がみられ,その他のフラボノイドの蓄積にはほとんど差がみられなかった.また,アントシアニン合成関与遺伝子の発現を比較したところ,フラバノン3-水酸化酵素およびフラボノイド3'-水酸化酵素の発現に差がみられた.これらの遺伝子は花弁の背軸面表層にアントシアニンが蓄積しないことにも関与している可能性が考えられた.花弁切片の観察から,花弁背軸面表層は通常品種と同様に表層特異的な細胞の形状を示しており,背軸面表層の消失あるいは内層化によってアントシアニンを蓄積していないわけではないことが示唆された.また,アントシアニンを蓄積していない花弁周縁部においても向軸面表層,内層,背軸面表層の三層構造が確認できたことから,この形質は周縁キメラによるものではないことが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
細胞層においてアントシアニン蓄積の能否を決定する遺伝子を特定するためには,花弁の各細胞層間における遺伝子発現の比較が必要である.しかしながら,本年度はレーザーマイクロダイセクションによる各細胞層の単離回収が思うように進まず,RNA-seqに供試可能なサンプルを得るに至らなかった.また,本研究では花弁内層にアントシアニンが蓄積しない原因を調査するとともに,花弁裏が白くなる(花弁背軸面にアントシアニンが蓄積しない)形質の要因を探索することも目的としている.そのために,花弁全面が着色する品種と裏白品種との交配を行い,後代を用いて制御遺伝子を特定することを計画していたが,本年度中に後代を得ることができなかった.以上のことから,「やや遅れている」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
引き続きレーザーマイクロダイセクションによる花弁各細胞層の単離回収法の改良に取り組み,平成30年度前期中にRNA-seq解析を行う.凍結切片ではなくパラフィン切片への切替えも検討している.また,これまでの研究により,花弁周縁部のアントシアニン蓄積を制御する遺伝子候補がみつかったため,当初の計画にはなかったが,花弁切片においてin situハイブリダイゼーション法による各細胞層の発現解析を新たに行うこととし,現在準備を進めている.花弁全面が着色する品種と裏白品種との交配に関しては,現在交配中のものがあり,採種でき次第,栽培および形質調査を行う.平成30年度中にF2を獲得し,ゲノム解析(RAD-seqを予定)に供試する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度中にサンプルを準備できなかったことにより,行う予定であった次世代シークエンス解析ができなかったことで,次年度使用額(繰越助成金)が生じた.平成30年度中にこの次世代シークエンス解析を行う予定であり,繰越金はその費用として使用する.また,当初より予定していた平成30年度分の助成金は,計画通り,制御遺伝子特定のための解析費,消耗品購入費および成果報告等に使用する.
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