植物の器官においてアントシアニンが蓄積する細胞層は限られており,花弁では表層のみに蓄積し,内層には蓄積しない.本研究では,花色の改変や機能性物質の高蓄積化が見込めるアントシアニンの細胞層別蓄積制御に向け,各細胞層においてアントシアニン蓄積の能否を決定する遺伝子を特定することを目的とした.花弁裏の白いカーネーション‘ミネルバ’の花弁凍結切片から,レーザーマイクロダイセクション(LMD)法により花弁三細胞層[向軸面表層(アントシアニンの蓄積あり),内層(蓄積なし),背軸面表層(蓄積なし)]を単離,回収した.これらの細胞層間でRNA-seqを行い,アントシアニン蓄積の有無と発現が一致する遺伝子の探索を試みたが,残念ながら微生物等の混入により正確な結果を得ることができなかった.しかし,これらのサンプルはリアルタイムRT-PCRには使用可能であることがわかった. ‘ミネルバ’は花弁周縁部にもアントシアニンを蓄積しない縁白形質を有しており,花弁裏で着色が見られないことと同一遺伝子による制御の可能性があった.そこで,花弁周縁部と中央部とでRNA-seqおよびリアルタイムRT-PCRにより発現比較を行った.その結果,縁白部分では新規のbHLH様転写因子,既知のフラバノン3-水酸化酵素遺伝子,ジヒドロフラボノール4-還元酵素遺伝子(DFR),アントシアニジン合成酵素遺伝子(ANS)およびフラボノイド3'-水酸化酵素遺伝子(F3'H)の発現が低く,これらが縁白形成に関与することが示唆された.これらの遺伝子について,LMD法で得た花弁三細胞層サンプルでの発現を調査した結果,内層および背軸面表層ではbHLH,DFR,ANSおよびF3'Hの発現がみられなかった.したがって,これらの遺伝子,特に転写因子であるbHLHが細胞層別にアントシアニン蓄積の能否を決定する遺伝子である可能性が示唆された.
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