2020年度は、前年度に実施できなかった光合成産物の果実への転流様式のRIイメージング技術による解析を行い、これまでに得られた各果房とその近傍の葉による光合成産物の需給関係の規則性について2つの異なる品種を用いて検証を行った。具体的には、11CO2トレーサガスを個別の葉に投与すると同時にRIイメージング技術を用いて11C標識光合成産物が各果房内の果実へ流入する過程をリアルタイムで撮像した。その結果、二つの品種は共通して果房より上に位置する葉のほうがそれの下に位置する葉より光合成産物の寄与率が大きいことが分かった。また、果房直上葉はその果実肥大に対して直接的な寄与はほとんどないことが分かった。トレーサガスを与えてから2時間後に葉、茎、果実を粉砕して抽出物の可溶性画分と不溶性画分に含まれるC-11の放射能量を調べたところ、葉では不溶性画分にC-11がほとんど含まれていないことに対して、果実では約半分、茎では約1割が不溶性画分にC-11が含まれていることが分かった。これは、光合成してから2時間以内の光合成産物は、葉では貯蔵よりも果実への輸送に優先的に使われており、果実では積極的に貯蔵物質に変換されていることを示唆している。また、着果した花柄と落花直後の花柄を対象にRNA-seqを実施し両者の遺伝子発現の差異を解析した結果、約1817個と1184個の遺伝子がそれぞれ4倍以上の発現上昇或いは減少を示した。特に細胞壁多糖の生合成に関わる遺伝子群に変化が多く見られ、花柄の発達や離層の形成などへの関与が示唆された。 全研究期間を通して、トマトの葉から各果房内の果実への光合成産物の長距離輸送を可視化するためのイメージング実験系を確立し、ソース葉とシンク器官(果実や根)間を繋ぐ篩管の転流の様式を可視化した。これによって、各果房とその周辺の葉との需給関係が明らかになり、生産現場における摘葉・摘果といった実用的な栽培技術への応用が期待される。
|