植物のウイルスに対する抵抗性シグナル伝達系における葉緑体の役割を明らかにするために、前年度は葉緑体の脂肪酸代謝シグナル伝達系変異体ssi2の基礎的防 御機構を活性化する表現型を抑制する復帰変異体であるrdc2変異体の特徴付け、および、原因遺伝子の探索を行ったが、本年度はrdc2変異体の原因遺伝子がクロロフィルA/B結合タンパク質遺伝子であることを相補性試験より明らかにした。また昨年度新たに得たキュウリモザイクウイルス沖縄バナナ系統バナナ分離株(CMV-OBb)を用いて、様々な植物におけるウイルス感受性を比較解析した。その結果、ズッキーニおよびニガウリはCMV-OBbに対して懐死を伴う病徴を示し、ウイルスに対する感受性の異なる2品種を見いだすことができた。このズッキー二の2品種については、葉の色が異なることから、色素量を測定したところ、葉緑体量が異なることが示唆された。葉緑体が多い品種はウイルス感受性が低くなることから、葉緑体のウイルスに対する過敏感反応や抵抗性への関与が考えられ、本材料は新たな研究材料として有望であると考えた。そこで交配を行い分離集団を作成した。今後、接種試験を行い遺伝分析を実施する予定である。 また、ニガウリにおいては、分子生物学研究の基盤構築を目的として、過敏感反応時に発生するホルモンであるサリチル酸を処理した際の転写発現プロファイリングを次世代シーケンシングを活用して実施した。その結果、サリチル酸誘導性防御関連遺伝子を新たに同定した。これによってトランスクリプトーム解析手法を確立できたため、さらにウイルス感染時の葉緑体の役割を明らかにするべく、シロイヌナズナのRCY1過剰発現体およびrdc2変異体におけるトランスクリプトーム解析を行っている。RCY1過剰発現体においてはストレス誘導性の遺伝子の発現上昇が恒常的に起こっていることがわかった。
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