農生態系における害虫、土着天敵の調査は総合的害虫管理において重要である。しかし、微小な害虫や個体数が少なく移動性の高い天敵の調査は難しく、同定には分類の専門的な知識が必要である。そこで、本研究では、農業生産の現場において総合的害虫防除を効率的に進めるために、DNA解析技術(環境DNAメタバーコーディング)を活用することにより、害虫・天敵発生消長データの収集を可能にする基盤技術開発を目指している。環境DNAとは生物が環境中に放出し、残留したDNAである。このDNAをメタバーコーディング技術と組み合わせることで、一度に大量のサンプルに含まれる複数種のDNA断片から網羅的に種を同定することが可能となる。しかし、この技術は環境DNAの回収が比較的簡単な水域での研究に用いられており、陸上の植物を食害する昆虫を対象にした研究はほとんどないのが現状である。 H30年度に行ったイネから害虫の残留DNAを回収する方法の検討では、イネの生育状況が悪かったこと、PCRの条件を変更したことなどが原因でDNAの検出率が全体的に低かった。そこで、H31・R01年度は、イネ上からDNAを回収する方法を再検討した。DNAが回収できたかどうかはCOI遺伝子領域の節足動物のバーコード領域を次世代シーケンサーで読むことで検証した。その結果、植物上からはさまざまな種類の節足動物が検出され、イネの害虫も複数種検出された。 さらに、重要害虫であるアブラムシやチョウ目の幼虫を用いて、害虫DNA の回収・検出可能な食害条件を昨年度に引き続き調べた。その結果、検出に必要な食害の量、日数、害虫の個体数は害虫の種類によって異なることが示唆された。たとえば、植物に接種後1時間で検出できる場合や、食害した後に虫を除去した場合、7日間以上DNAが植物上に残留している場合があることが明らかとなった。
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