研究実績の概要 |
本研究はトマトの苗が生育する環境から苗姿が決定される際に関わることが想定される分子機構がどの程度実際の苗姿と関わっているかを定量化し、高精度なシミュレーションモデルを立てることにあった。 本課題ではまず、トマトの苗姿に大きな影響を与える窒素栄養が単独で維管束の発達、遺伝子発現にいつ、どの部位でどの程度影響を与えるのかを定量化した。例えばトマト品種CF桃太郎ヨークを水耕栽培で総イオン濃度を保ったまま硝酸イオン濃度を2.8 mMから14 mMまで変えて生育した場合、維管束面積と子葉直下の茎径に差が出始めるのは17日目からであったが、維管束の発達を促すサイトカイニンの合成酵素SlIPT7の遺伝子発現は14日目までに硝酸イオン濃度が高い試験区で同じ部位で高くなっていた。これまでのシロイヌナズナなどを用いた報告でサイトカイニン量と維管束面積はパラレルな関係が報告されていたが、サイトカイニン量は維管束面積の増大に先立って増加し、サイトカイニン量が維管束面積を制御していることが明らかになった。オーキシンの濃度低下時に発現量が低下する2つの<i>bZIP転写因子遺伝子</i>はそのT-DNA挿入機能欠損変異体において、維管束に多いキシログルカンを再編成するXTH遺伝子のうちいくつかの発現が低下したことこからオーキシン-<i>bZIP</i>-<i>XTH</i>(維管束成長)のシグナルカスケードの存在が示唆された。これらの実験で得られた主にサイトカイニン、オーキシンとジベレリンに関わる制御関係の定量データはビッグデータの機械学習による育苗モデルの改良に用いた。このモデルではデータ収集済みのいくつかの品種、72穴育苗セルトレイという条件下において育苗21日目の苗姿を茎径が1.8から7 mm, 草丈が15から21 cm の間で制御シミュレーションできる。
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