本課題では糸状菌特有の細胞融合制御機構の解明を目的とし、Aspergillus oryzaeの細胞融合に必須なMAPキナーゼAoFus3及びそれと相互作用するタンパク質AoSte12、FipCの解析を行った。 前年度の結果から、FipCがAoSte12の機能を調節することで細胞融合に関わる遺伝子群の転写を制御することが示唆されていた。本年度はfipC高発現株の解析によりFipCが細胞融合関連遺伝子を正に制御することが裏付けられた。また、fipC高発現時には細胞融合関連遺伝子のうちAonosAのみがAoSte12依存的に誘導されていた。一方でfipCの高発現は細胞融合効率を低下させること、この低下にはAoSte12が必要なことが示された。これらより、FipCがAoSte12を介してAonosAを制御し、過剰なAonosAの発現が細胞融合を妨げる可能性が考えられた。 タンパク質レベルの解析ではFipC、AoSte12が翻訳後修飾を受けることが示された。AoFus3破壊株やAoFus3活性化条件ではこれらの修飾に変化が見られなかったが、興味深いことにfipC破壊株ではAoSte12の修飾の割合が低下し、fipC高発現株では亢進することが示唆された。このことから、FipCがAoSte12の修飾状態を調節することで、細胞融合関連遺伝子の転写を制御する可能性が考えられた。 前年度、TAP解析によりFipCと相互作用するタンパク質の候補を複数同定していた。本年度、共免疫沈降法により2つのタンパク質がFipCと相互作用することが示された。 本課題で得られた知見は糸状菌の細胞融合制御機構の特異性を解明する上で重要である。今後タンパク質レベルでの解析を進めることで、AoFus3、FipC、AoSte12による糸状菌特有の細胞融合制御機構の解明が期待される。
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