本研究では、ヒト腸内乳酸菌の Lactobacillus gasseri のリポテイコ酸(LTA)の構造多様性と特異性を調べ、本菌種に特異的な構造と免疫誘導能の関わりを明らかにすることを目的とした。 今年度は、ヒト腸管上皮細胞株HT-29を使用して、L. gasseri、Lactococcus lactis (有用細菌)、Staphylococcus aureus (病原性細菌) 由来のLTAを曝露した時のサイトカインIL-8の産生誘導量を比較した。LTA単独刺激の場合、S. aureus のLTAにのみコントロール群に比べて有意なIL-8の産生誘導が認められた。さらに、大腸菌由来リポ多糖(LPS)刺激によるIL-8産生誘導に対するLTAの影響を検討した。3株全てのLTAでLPSによるIL-8の産生誘導が有意に抑制されたが、その抑制活性は L. gasseri のLTAが有意に弱かった。 以上により、HT-29細胞におけるIL-8産生において、LTAの単独刺激では S. aureus とは異なり、L. gasseri と L. lactis はIL-8の産生に影響を与えなかった。LPSによるIL-8の産生誘導に対しては、L. gasseri でのみ抑制活性が弱いという特徴が認められた。これは、L. gasseri のLTAの特異的な構造と特徴的な生物活性との相関が示唆される。なお、死菌体による評価では、単独刺激もLPS刺激によるIL-8産生誘導に対しても有意なIL-8産生量の変化は認められなかった。一方で、LTAの純度の向上や、比較対照をより広げることなどによって、L. gasseri のLTAの特徴をより明確なものにしていく必要がある。 今年度は、上記の他に細菌の生育段階におけるLTAの表層局在の変化に関する知見も得ることができた。
|