研究課題/領域番号 |
17K15252
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
鈴木 祥太 法政大学, マイクロ・ナノテクノロジー研究センター, P・D (00792714)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ファージ / ICE / Integrase / 部位特異的組換え |
研究実績の概要 |
細菌の遺伝子の水平伝播に関わる可動性遺伝因子の代表として、溶原性ファージと接合伝達因子(ICE)がある。溶原性ファージとICEのゲノムは、異なる方法で細菌間を運搬される一方、宿主ゲノムへの組込みが部位特異的組換え酵素(Int)と切出し因子(Xis)を利用している点で共通している。本年度は、この溶原性ファージとICEのint-xisを交換することで異なる可動性遺伝因子の一部として機能することを明らかにした。枯草菌の溶原性ファージSPβとICEBs1(ICE)のint-xisおよび組換え配列(attL/R)を入れ換えた、キメラファージ(SPβICEBs1)とキメラICE(ICEBs1SPβ)の作製を行った。SPβICEBs1はマイトマイシンC(MMC)処理により感染能を有するファージ粒子を産生し、SPβICEBs1ゲノムがICEBs1の標的組換え部位(attB)へ組み込まれることを確認した。ICEBs1SPβも接合伝達により受容菌へ伝達され、ICEBs1SPβゲノムがSPβのattBへ組み込まれることを確認した。また、欠陥プロファージskinもint-xisを保有しており、このint-xisを交換したキメラファージ(SPβskin)の作製も行い、産生されたファージ粒子の感染能と、SPβskinゲノムがskinのattBへ組み込まれることを確認した。以上から、溶原性ファージと接合伝達因子または欠陥プロファージのint-xisは交換可能であり、互換性を持つことが示された。また、公共ゲノムデータベースを調べたところ、B. subtilisの近縁種に、全く異なるint-xisをもち、組み込まれる位置が変化した、SPβ様ファージの存在を見出した。これらの結果から、可動性遺伝因子の異なるint-xisの獲得機構が存在し、宿主ゲノムへの組込み位置を変える新たな感染手段を獲得していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度の研究の目的は、溶原性ファージとICEのint-xisの変換による機能解析とint-xisの分類である。前者において、枯草菌の溶原性ファージSPβとICEBs1(ICE)のint-xisを変換したキメラファージおよびキメラICEを作製し、ファージ粒子形成能または接合伝達能に影響しない一方、本来とは異なる位置への組換え装置として機能することを明らかにした。さらに、欠陥プロファージが保有するint-xisのSPβとの変換により、欠陥プロファージのint-xisも感染力をもつファージに利用され得ることを示すことができた。後者においては、公共データベースを利用したint-xisの解析から、枯草菌ファージSPβと相同性の高い遺伝子構成を有する一方、異なるint-xisをもつSPβ様ファージの存在を見出した。これらは自然界における溶原性ファージのint-xisの変換が起きていることを示唆するものである。これまでに、可動性遺伝因子が組換え機構を変換することで組み込み位置を変化させることに関する報告はない。今回の解析結果は、可動性遺伝因子間におけるint-xisの共通性、および可動性遺伝因子がint-xisを変換させる有力な証拠を得ることが出来たため、研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
公開ゲノムデータの調べから、自然界のファージがint-xisを変換して組み込まれる位置を変化させていることが示された。今後は、可動性遺伝因子が異なるint-xisを獲得する機構について解析を進めていく。本研究課題を進行中にファージの組込み配列(attB)をゲノム上の任意の位置へ導入する系を確立している。この系を利用して、宿主ゲノムへ安定に組み込まれるための組込み位置の条件についても調べる。また、int-xisの可逆的な組換え機構を利用したint-xisベクターの作製を行うとともに、ICEの接合伝達機構を利用した、接合伝達による細胞間移動が可能なベクターの作製のための遺伝子カセットの検討を行う。
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