研究課題/領域番号 |
17K15255
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
五十嵐 健輔 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (90759945)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メタン菌 / 硫化鉄 / 生理活性 / 鉄-イオウクラスター / 網羅的遺伝子発現解析 / メタン生産 |
研究実績の概要 |
地球上の様々な嫌気環境において、メタン菌と硫化鉄はしばしば共存している。先行研究によって、メタン菌を磁硫化鉄の一種であるグライガイト(Fe3S4)の存在下培養すると、メタン生産と増殖が著しく促進されることが明らかにされている。本研究の目的は、このグライガイト依存的に代謝が促進される機構を、化学および分子生物学的なアプローチにより解明することである。 29年度の実施内容として、はじめにグライガイトの鉱物学的特性と代謝促進との関係性について調査した。その結果、グライガイト以外の硫化鉄種や酸化処理を施したグライガイトを用いた場合には、代謝促進がおこらないことが明らかになり、グライガイト特有の鉱物的特性(例えば結晶構造や原子価)が代謝を促進する生理活性に寄与することが示唆された。 次に、グライガイト依存的な代謝促進時におこるメタン菌の遺伝子発現の変化を解明するために、顕著な代謝促進が見られたメタン菌Methanocaldococcus jannaschiiを対象にトランスクリプトーム解析を行った。その結果、代謝促進時には、鉄-イオウクラスター依存的な反応でtRNAの転写後修飾に関わる遺伝子、そして複数の陽イオントランスポーターの遺伝子などの発現が上昇しており、鉄-イオウクラスターの合成や利用に関わる経路が代謝促進に関与する可能性が示された。しかし、上記の結果を裏付けるために当初予定していたプロテオーム解析には着手できておらず、細胞内における代謝変化の全容解明には至っていない。 一方、30年度に予定していた、グライガイトによる代謝促進の応用利用性についての研究を前倒しして開始した。その結果、有機物からのメタン生産が可能な共培養系においてもグライガイトによるメタン生産の促進が観察され、この技術をメタン生産微生物群集を用いた廃棄物処理へ応用できる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
29年度はグライガイトによって影響を受ける代謝経路を、トランスクリプトーム解析とプロテオーム解析によって明らかにすることを計画していた。トランスクリプトーム解析により、代謝促進に関わる遺伝子を概ね特定することができたものの、プロテオーム解析については、想定よりも実験準備に時間がかかり着手できなかった。しかし、30年度に予定していた応用利用性についての研究を前倒しして完了できたため、この遅れは十分に挽回できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は、グライガイトによる代謝促進機構の普遍性を明らかにするため、多様な種類のメタン菌に対する遺伝子発現解析を行い、促進に関わる代謝経路の共通性を調べる実験を行う。また、プロテオーム解析および酵素活性の変化を解析することで、促進に寄与する代謝経路の詳細な解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度の研究内容において、手法の改良、およびプロテオーム解析を行わなかったことから未使用額が生じた。30年度の使用額は上記の未使用額も含めて、培養と分子生物学実験に必要な試薬等の消耗品、およびプロテオーム解析のための外注分析費等に使用する予定である。
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