研究課題/領域番号 |
17K15259
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小川 拓哉 京都大学, 化学研究所, 助教 (40756318)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アシルグリセロールリン酸アシル基転移酵素 / PlsC / 変異解析 / 阻害剤開発 |
研究実績の概要 |
細胞膜リン脂質の前駆体であるホスファチジン酸 (PA) は、真核生物・真正細菌を問わずアシルグリセロールリン酸アシル基転移酵素 (AGPAT) によってde novo合成される。AGPATは膜内在性タンパク質であるために精製が極めて難しく、これまで酵素学的な知見が乏しかった。以前の研究において、低温性細菌Shewanella livingstonensis Ac10由来の細菌型AGPAT (以下、PlsCと表記) を活性を保ったまま精製することに成功し、基質特異性などの反応特性を明らかにした。この結果に基づき、AGPAT/PlsCの反応機構解析を目的として平成30年度は以下の実験を行った。 1) 未解明であるPlsCの基質特異性を決定する分子機序を明らかにするため、S. livingstonensis Ac10由来PlsCの変異解析に取り組んだ。平成29年度に作製した変異型PlsCを、大腸菌Escherichia coliの温度感受性plsC変異株で発現させin vivoで反応特性を調べたところ基質特異性の変化が示唆された。さらに詳細に解析するため変異型PlsCの精製を試みたが、いずれの変異型PlsCも精製過程で失活してしまい特性解析には至らなかった。 2) 安定性の低いS. livingstonensis Ac10由来PlsCの結晶構造解析を目指して、同酵素に対する阻害剤の開発に取り組んだ。平成29年度に行った1次スクリーニングで選抜された38化合物について2次スクリーニングを行い、6化合物にPlsC活性を0~40%にまで低減する阻害効果が確認された。このうち5化合物には共通してベンゼンジオール構造が含まれ、これが阻害活性に重要だと考えられた。また、選抜された阻害剤を構造的に改変することでより強い阻害効果を示す化合物が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年8月に他の研究グループによって好熱菌由来のPlsCの結晶構造が報告され、AGPAT/PlsCによるアシル基転移反応の基礎的な分子機序が提唱された。これを受け当初の実験計画を変更し、S. livingstonensis Ac10由来PlsCの変異解析および阻害剤開発に取り組むこととした。変異解析では、野生型PlsCと比べて変異型PlsCは想定外に不安定であり精製過程で失活してしまったため、目標としていた基質特異性を決定する分子機序の解明には至らなかった。一方で、本酵素に対する阻害剤開発では、結晶構造解析に供するに充分な50%阻害濃度を示す化合物が得られ目標を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
スクリーニング実験の結果、S. livingstonensis Ac10由来PlsCに対する阻害剤の開発に成功したが、その阻害様式は未解析であり、また、阻害効果の評価についても現状では50%阻害濃度の測定のみである。より多角的な評価が必要であるため、速度論解析による阻害様式および阻害定数の決定、等温滴定カロリメトリーによる解離定数の測定、円二色性分散計を用いた酵素-阻害剤複合体の熱安定性試験を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
S. livingstonensis Ac10由来PlsCの変異解析において、変異型PlsCの精製が想定外に難航しため反応特性解析に至らず、当初予定していたほどの支出が発生しなかった。また、本酵素に対する阻害剤開発においては有効と考えられる阻害剤が得られたが、阻害活性の評価方法が不充分であるため、平成31年度に追加実験を行うこととした。その用途としては、阻害剤の有機合成、PlsCの精製、阻害剤存在下でのPlsC活性の速度論解析等に用いる試薬の購入費を予定している。
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