研究課題/領域番号 |
17K15261
|
研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
安田 佳織 富山県立大学, 工学部, 助教 (70707231)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 遺伝子改変ラット / ビタミンD / 代謝 |
研究実績の概要 |
CYP27B1機能不全は、体内の25-ヒドロキシビタミンD3 (25D3) を活性型ビタミンD3(1α,25-ヒドロキシビタミンD3; 1α,25D3)へ代謝できず骨疾患を伴う。活性型ビタミンD3製剤の投与で回復するが、より副作用の少ない治療薬が望まれている中、我々はCYP27B1遺伝子欠損マウスを用い、25D3投与が新しい治療法となり得る可能性を見出した。25D3は体内に多く存在することから投与による毒性もみられておらず、骨粗鬆症予防にも有用である可能性がある。25D3による予防・治療法の確立を行う上で、[1]25D3投与時の活性型ビタミンD3を含めた種々の代謝物量、組織分布やそれらの生理活性への寄与、また、[2]CYP27B1遺伝子欠損時の1α位水酸化酵素の特定が重要な情報となる。 [1]については、多数存在する25D3代謝物の多くが市販されていないことから、各種代謝物を代謝酵素発現系により分取し、それらを標準品としてLC/MS/MSを用いた一斉定量分析法を確立した。確立した分析法を用いて25D3投与ラットの血中代謝物を調べたところ、24,25-ジヒドロキシビタミンD3や24-オキソ-25D3を含む5種の代謝物が検出された。[2]については、最近作出に成功したCYP27B1遺伝子欠損ラットから肝臓の各画分を調製し、各画分で25D3の1α位水酸化活性がみられるかを調べた。その結果、肝臓ミトコンドリア画分において活性が検出された。肝臓ミトコンドリア画分に存在するCYP27A1はビタミンD3の25位水酸化酵素として知られているが、発現系を用いた実験から、CYP27A1は低いながらも25D3の1α位水酸化活性を有しており、CYP27B1遺伝子欠損時には肝臓中のCYP27A1によって25D3から活性型ビタミンD3が生成されていることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したとおり、本研究は[1]25D3投与時の種々の代謝物量、組織分布やそれらの生理活性への寄与を調べると同時に、 [2]CYP27B1遺伝子欠損時の1α位水酸化酵素の特定を行うことで、CYP27B1機能不全によるくる病、腎機能低下による骨粗鬆症の新たな予防・治療法を提案するものである。[1]については、代謝物の多くが市販されていないことから一般的には定量分析方法が確立されていないが、今回、自ら代謝物を分取し、多数の代謝物の一斉定量分析法の確立を実現した。本方法を利用することで、これまで未解明であった種々のビタミンD微量代謝物の分布や経時変化を明らかにすることが可能となる。[2]については、CYP27B1欠損時にその代替となる代謝酵素がCYP27A1であることを明らかにした。CYP27B1が腎臓に存在するのに対し、CYP27A1は肝臓に存在する酵素である。本結果は、加齢等による腎機能低下の場合にも25D3投与が有用であることを示唆している。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目は、1年目で確立した一斉分析法を利用して、25D3投与ラットに複数存在した血中代謝物の経時変化や組織分布を調べる。各組織で多くみられた代謝物については、1年目に確立した方法で代謝物を取得し、その生理活性を調べる。生理活性としてはビタミンDレセプターとの親和性評価や培養細胞を用いた骨代謝試験を行う予定である。各生理活性を活性型ビタミンD3と比較し、組織における濃度を考慮することで生理活性への寄与を推定する。これまで、どのビタミンD代謝物がどのような生理活性を有するか明らかになっておらず、上述した実験結果は、ビタミンDの作用メカニズムを解明する上でも重要な情報となる。また、これまで、CYP27B1が生体内で唯一のビタミンD類1α位水酸化酵素と考えられていたことから、今回CYP27A1が生体内で同活性を有したという結果は斬新である。腎臓に存在するCYP27B1が機能不全の場合でも、肝臓中のCYP27A1によって投与した25D3から活性型ビタミンD3生成を行うことができる。CYP27A1遺伝子変異と1α位水酸化について調べることで、25D3投与による予防・治療の個人差も明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、1年目の実験として予定していた動物での代謝試験の一部を、2年目に繰り越した。1年目に細胞・酵素を利用した代謝試験、酵素同定試験結果が得られていることから、その結果を踏まえて、2年目で、1年目よりも詳細な動物での代謝試験を行う予定である。
|