研究課題/領域番号 |
17K15263
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
尾崎 太郎 北海道大学, 理学研究院, 助教 (40709060)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生合成 |
研究実績の概要 |
糸状菌の生産する環状リボソームペプチド(RiPPs)であるustiloxin Bの生合成では、酸化酵素UstYが環状構造の形成を触媒すると考えられる。他の糸状菌由来RiPPsの生合成遺伝子クラスターにもUstYのホモログが見いだされているが、それらの機能は明らかにされていない。そこで、本年度は以下の2種の化合物を対象に生合成遺伝子の異種発現を行い、機能解析を試みた。Aspergillus flavusが生産するasperipin-2aはエーテル架橋を二つ有する二環性のペプチドである。その生合成遺伝子クラスターは、前駆体遺伝子とUstYホモログ、還元酵素、トランスポーターの4種から構成される。各遺伝子をクローニングした後、麹菌に導入した。得られた形質転換体の生産物を分析したところ、asperipin-2aが生産されることが明らかになった。以上の結果より、asperipin-2aの生合成においてもUstYホモログがエーテル架橋の形成に関与することが強く示唆された。 同様に、Phomopsis leptostromiformisが生産するphomopsin Aの生合成遺伝子についても、異種発現による機能解析を行った。本化合物はustiloxin Bと同様の骨格を有することから、前駆体遺伝子とチロシナーゼ、UstYホモログが環状ペプチドの形成に関与すると推測した。phomopsin A生合成遺伝子クラスター中の候補遺伝子をクローニングし、麹菌に導入した。得られた形質転換体の生産物を分析したが、予想した生合成中間体は生産は確認できなかった。 また、UstYの機能を明らかにするために、化学合成したペプチドを基質とした試験管内反応も検討した。異種発現に成功したasperipin-2a生合成系を対象に実験を行ったが、活性の検出には至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画した通り、asperipin-2aの生合成遺伝子を対象として研究を行った。生産菌であるAsperigillus flavusからustYのホモログを含む4種の生合成遺伝子をクローニングし、麹菌を宿主としてそれらを異種発現することでasperipin-2aの異種生産に成功した。これまでに糸状菌のRiPPsにおける環化酵素遺伝子の機能解析はustiloxin Bの一例しかなかったが、asperipin-2aの生合成においてもエーテル架橋の形成にUstYのホモログが関与することが示唆された。ustiloxin Bでは生合成中間体である環状ペプチドの形成に、チロシナーゼと2種のUstYホモログの計3つの酵素が必要であった。一方で、asperipin-2aの場合には、導入した4遺伝子のうち、前駆体遺伝子とトランスポーター遺伝子を除いたUstYホモログと還元酵素の2種のみが生合成に関与すると考えられる。そのため、組換えタンパク質を用いた試験管内反応を検討する際に、修飾酵素の数が少なく取り扱いが容易であることが期待できる。 一方で、phomopsin Aの生合成遺伝子についても異種発現を行ったが、形質転換体に特異的な代謝産物を同定できなかった。公開データベースに登録されているphomopsin Aの生合成遺伝子の配列は断片的なものであり、遺伝子間領域の情報がないため遺伝子領域の再アノテーションなどを行うことができなかった。 また、組換えタンパク質を用いた試験管内反応を検討したが、活性を検出することはできなかった。 以上のことから、当初計画よりやや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に異種発現を試みた化合物のうち、phomopsin Aについては目的化合物の異種生産を達成することができなかった。対象とした遺伝子のアノテーションに誤りがある可能性が考えられるが、公開データベースに登録されているphomopsin Aの生合成遺伝子の配列は断片的なものであり、遺伝子間領域の情報がないため遺伝子領域の再アノテーションなどを行うことができなかった。前年度に、生産菌であるPhomopsis leptostromiformisのドラフトゲノムシーケンスを独自に行ったため、再度ゲノム配列の解析を行い、生合成遺伝子のアノテーションを見直す。 また、UstYの配列をクエリとして、他のRiPPs生合成遺伝子のゲノムマイニングも引き続き行う。見出した候補遺伝子については、麹菌を宿主とした異種発現を行い、生産物の同定を試みる。 組換えタンパク質を用いた試験管内反応も引き続き検討する。平成29年度の検討では、大腸菌を宿主とした組み換え蛋白質を可溶性画分に発現し精製することが困難であった。これはUstYの配列中に予測される膜結合領域に起因するものだと考えられる。そのため、糸状菌を宿主とした組み換え蛋白質の発現を試みた。組換えタンパク質を発現した無細胞抽出液を用いて反応を行ったが、その際に基質とするペプチドの分解が問題となっている可能性が示唆された。そのため、細胞内に存在する消化酵素に対してより安定な化合物が基質となる生合成系を探索し、酵素反応を検討する。
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