リボソームペプチドは、遺伝子の転写と翻訳により合成される前駆体が翻訳後修飾を受けることで生合成されるペプチド系天然有機化合物の一群である。微生物では、バクテリアで広く研究されている一方で、糸状菌における解析例は限定的であった。本研究課題では、糸状菌由来のリボソームペプチドに着目し、研究を行った。特に、ustiloxin Bやphomopsin A等、現在知られている糸状菌リボソームペプチドに共通する、エーテル結合を介した環状ペプチド構造の形成機構解明を目的として、研究を進めた。 前年度の研究によって、Aspergillus flavusが生産するリボソームペプチドasperipin-2aの異種生産に成功した。そこで、asperipin-2aの絶対配置を決定するために、形質転換体から単離した化合物を水素添加及び加水分解反応に供した。分解生成物を改良マーフィー法に供し、各アミノ酸残基の絶対配置を決定した。また、3-フェニル乳酸部分に関しては、キラルHPLCを用いて分析し、標品との比較から絶対配置を決定した。以上の結果と、NMRにより決定した相対配置の情報を組み合わせ、asperipin-2aの絶対配置を決定した。本化合物の構造に存在する二つのエーテル結合が同じ立体化学を有していたことから、これらの結合の形成が同一の酵素により触媒されることが示唆された。以上、生合成遺伝子の異種発現により、asperipin-2aの生合成に4つの遺伝子が関与することを明らかにした。環化反応に3種の酵素が関与することが提唱されているustiloxin Bなどと比較して、環化に関与する酵素が少ないことから本化合物はより扱いやすい研究対象だと言える。現在までに試験管内反応による環化酵素の活性検出には成功していないが、必要な酵素の数が絞り込めたことから今後の進展が期待される。
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