研究課題/領域番号 |
17K15266
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 雄一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (70792729)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 酸化コレステロール / Insig / ATF4 / 統合的ストレス応答 |
研究実績の概要 |
25(OH)cholesterol (25HC)は生体内においてコレステロール代謝を強力に制御する因子であり、脂質代謝制御因子Insigはその機能メディエーターとして働く。近年、この25HCにより抗肥満効果を有するホルモンFGF21の転写因子ATF4(Activating transcription factor 4) が誘導されることが報告された。予備実験により、この発現誘導にInsigが関与する知見を得ている。そこで本研究では、InsigによるATF4 発現制御という新規調節機構を解明し、Insigの統合的な代謝調節機構を提案する。 Chinease hamster卵巣由来のCHO-7細胞並びにそのInsig欠損株であるSRD-15細胞を種々の酸化コレステロールで処理し、ATF4の発現パターンを検証した。その結果、ATF4発現を亢進する酸化コレステロールにある種の共通性を見出し、また、Insig の発現がそのATF4 発現亢進に重要であることを見出した。ATF4発現亢進機構においては、Insigの二つのアイソフォームInsig1とInsig2の間に機能差は無く、各種変異体を用いた実験によりATF4発現亢進に影響を及ぼす領域を見出した。ATF4の発現亢進はeIF2αのリン酸化を介して行われている。そこで、HuH-7細胞を用いてこのeIF2αの4種のキナーゼをノックダウンし25HC応答性を検証した。その結果、4種のうち2種のキナーゼのノックダウンにより25HC処理によるeIF2αのリン酸化亢進が減弱した。さらに、このリン酸化の減弱とATF4発現への影響に関していくつかの興味深い知見を得ており、この結果は25HCによるATF4発現亢進においてInsigを介した新規機構解明につながるものと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 酸化コレステロールによるATF4発現亢進解析; ATF4発現を亢進する酸化コレステロールはInsigとの関与を示唆さする共通性を有しており、また、それらによるATF4発現亢進はInsig欠損により減弱することを明らかにした。これは酸化コレステロールによるATF4発現応答とInsigの関与を示唆するものである。 2) Insig変異体を用いたATF4応答性解析; 野生型Insig並びに各種機能欠損変異型Insigをレンチウイルスベクターを用いてSRD-15細胞に発現させ、25HCによるATF4発現応答を検証した。その結果、Insigの二つのアイソフォーム間では機能差は無かった。一方で、各種機能欠損変異体を用いた解析によりATF4発現応答におけいて重要である領域を見出すことが出来た。 3) 25HCによるATF4発現亢進機構の解析; 25HCによるeIF2αのリン酸化亢進に関与する2種のeIF2αキナーゼを見出した。加えて、このリン酸化とATF4発現亢進に関して興味深い知見を得ることが出来た。 以上のように当初計画とは異なるアプローチであるものの、本研究の目的であるInsigによるATF4 発現制御という新規調節機構の解明につながる結果が得られている。一方で、ヒト細胞でのInsig欠損株樹立に時間を要してしまっている。
|
今後の研究の推進方策 |
ヒト細胞でのInsig欠損株を樹立し解析を行う。また、当初の計画の通り、酸化コレステロール処理により変動する網羅的な結合タンパク質結合解析を行う。当初は、共免疫沈降法のみによる解析を予定していたが、それに加えビオチン化酵素を応用した結合解析(BioID)による解析も同時に行い、ATF4発現に関与するタンパク質の同定を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画とは異なるアプローチを展開したため、結合タンパク質解析を次年度へと繰り越した。したがって、次年度結合タンパク質解析を開始するため、新たな試薬類が必要となる。研究費は主にその購入費に充てる。また、研究成果報告のための学会出張旅費にも充てる。
|