25(OH)cholesterol (25HC)は生体内においてコレステロール代謝を強力に制御する因子であり、脂質代謝制御因子Insigはその機能メディエーターとして働く小胞体膜タンパク質である。Insigは酸化ステロールと結合することで、SREBP活性制御やHMG-CoA還元酵素の分解制御を介した脂質代謝調節を担う。近年、酸化ステロールによりストレス応答性の転写因子ATF4が誘導されることが報告され、研究代表者はこのATF4発現にInsigが関与することを示唆する結果を得た。そこで、本研究では酸化ステロール-Insigによる新機能の解明を目的として、Insigと酸化ステロールによるATF4発現調節機構について解析を試みた。 Chinease hamster卵巣由来のCHO-7細胞並びにそのInsig欠損株であるSRD-15細胞を用いた解析の結果、ATF4発現を亢進する酸化ステロールにある種の共通性を見出し、また、Insig の発現がそのATF4 発現亢進に重要であることを見出した。最終年度では、酸化ステロールにより発現が亢進したATF4はその標的遺伝子のうちアポトーシス関連遺伝子選択的に発現を顕著に亢進し、Insigの欠損によりそれらの発現亢進も起こらなくなることが明らかとなった。さらにMTTアッセイの結果、25HC処理下における細胞生存率はCHO-7において顕著に低下したのに対し、SRD-15においてはほとんど変化しなかったことから、酸化ステロールはInsigを介してATF4発現を上昇させ、細胞死を誘発することが示唆された。また、ヒト肝がん由来細胞HuH-7を用いてCRISPR/Cas9システムによりInsig欠損細胞を樹立し酸化ステロールによるATF4発現応答を解析した結果、CHO-7同様Insigの欠損によりATF4発現が減弱することが明らかとなった。これらのことから、Insigの新規機能として、酸化ステロールによるATF4発現亢進のメディエーター分子として働くことが示唆された。以上の研究成果については現在論文投稿の準備中である。
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