研究実績の概要 |
現在、高齢者で多発するビタミンB12(B12)欠乏症の発症メカニズムの解明が求められている。これまでにヒトのモデル生物である線虫(C. elegans)を用いて、B12の欠乏が著しい酸化ストレス障害を誘発することを明らかにした。酸化ストレスと「老化」の密接な関連性はこれまでに種々の報告がなされているが、「B12と老化」の関連性は不明であり、B12の老化制御機能を明らかにすることを目的とし本研究を遂行している。 まずは、B12欠乏で応答を示す酸化ストレス関連遺伝子を探索した結果、B12欠乏でレドックス制御機構において重要な機能を果たすスーパーオキシドディスムターゼ(SOD, sod-3)およびグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST, gst-10)の遺伝子発現が顕著に減少していた。ウエスタンブロット法によるタンパク質発現を検討した結果、SODおよびGSTはB12欠乏でタンパク質発現の減少を示した。 しかし、抗酸化物質(グルタチオンおよびビタミンC)を供給したB12欠乏線虫では、sod-3とgst-10の遺伝子発現およびタンパク質発現が回復傾向を示したことより、B12欠乏による酸化ストレス障害でSODおよびGSTの遺伝子・タンパク質発現の変動が見られたと考えられる。 非常に興味深いことに、本研究を遂行する中でB12欠乏線虫は著しい運動機能の低下を示すことが明らかになった。抗酸化物質(グルタチオンおよびビタミンC)を供給したB12欠乏線虫では、運動機能の低下が回復したことより、この運動機能の低下もB12欠乏による酸化ストレス障害に起因することが推察された。現在は、このB12欠乏による運動機能の低下の詳細なメカニズムの解析についても視野に入れながら研究を推進させる予定である。
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