研究課題/領域番号 |
17K15272
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
小宮 佑介 北里大学, 獣医学部, 助教 (80791665)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 骨格筋 / エイコサペンタエン酸 / EPA / 脂肪酸 / PPARδ / 持久力 |
研究実績の概要 |
魚油は肝臓や脂肪組織に作用し、脂質代謝を促進することで肥満改善に寄与している。その一方で、生体内の最大の代謝組織の一つである骨格筋における魚油の働きはあまりわかっていない。申請者らはこれまでに魚油摂取によりラット骨格筋の脂質代謝能力が向上すること、さらに魚油に含まれる多価不飽和脂肪酸の一種であるエイコサペンタエン酸(EPA)が核内受容体PPARδを活性化し、脂質代謝亢進に寄与していることを明らかにしている。本研究では、EPAによる脂質代謝改善作用のメカニズムを骨格筋の観点から解明することを目的としている。 まず、EPAの骨格筋細胞への作用により変動する遺伝子の網羅的解析を行うため、mRNAの抽出法確立に取り組んだ。申請者の所属する研究においては、細胞培養および細胞からのmRNA抽出法が確立していなかったため、まず実験系の立ち上げを行った。その結果、マイクロアレイにも利用できる純度の高いmRNAの抽出が可能となった。次年度からはマイクロアレイ解析に着手する。 また、EPAの投与試験(4週間)を行った。1000 mg/kgのEPAエチルエステルを胃ゾンデによりラットに毎日経口投与を行った。投与から3週目に呼気ガス、4週目に筋持久力を測定し、飼育終了後、脂肪代謝関連因子の発現量を確認した。呼気ガスの解析より、EPA投与は酸素消費量、脂質酸化を増加させ、呼吸商を減少させた。筋持久力ではEPA投与群のほうが発揮張力の平均値は大きかったものの、有意な差は確認されなかった。qPCR解析より、これまでの成果に反し、EPA投与によりPPARδの標的遺伝子かつ脂質代謝を促進するPDK4, UCP3の発現量が減少した。その一方でミトコンドリアの生合成に関わるPGC-1αや脂質代謝優位なミオシン重鎖1の発現量は増加した。タンパク質レベルでは、ミオシン重鎖1およびPDK4の発現量が増加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
細胞培養の実験系立ち上げに時間を要し、予定していた遺伝子の網羅的解析(マイクロアレイ)および代謝物の網羅的解析(メタボローム解析)に着手できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
細胞培養系の立ち上げに伴い、今後の研究方針として、EPA添加による筋細胞への影響を網羅的に解析する。 まず、EPA添加による変動遺伝子を網羅的に解析するためにマイクロアレイ解析を行う。ラット筋芽細胞株から調製した筋管の培地中に30 μM EPAを添加し、培養12時間後にサンプルを調整し、マイクロアレイに供する。本結果と運動トレーニングにより変動する遺伝子(Rooney et al., PLoS ONE, 2015)の比較を行うことで運動を模倣したサプリメントとして有用性があるかの鍵となるデータを得ることが可能である。 また、EPA添加による骨格筋における代謝物の変動を網羅的に解析する。本解析にはHuman Metabolome TechnologiesのC-SCOPEを利用する。本解析法は高感度なCE-QqQMSを用いて、エネルギー代謝(TCA回路や脂肪酸β-酸化)に関する代謝物を絶対量で測定可能という優れた点を持つ。また骨格筋細胞から抽出したサンプルでは血漿や尿サンプルに比べ、代謝物量が少ないことが予想されるため、高感度・高精度で微量の代謝物も検出可能な本解析を選定した。具体的には、ラット筋芽細胞株から調製した筋管の培地中に30 μM EPAを添加し、培養72時間後にサンプルを調整する。EPAは24時間毎に培地交換とともに添加する。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞培養の実験系立ち上げに時間を要し、今年度に予定していたメタボローム解析の実施が次年度に変更となったため、その費用を繰り越した。次年度はHuman Metabolome Technologiesへの外注費用として繰り越した助成金を使用し、メタボローム解析を実施する。
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