研究課題/領域番号 |
17K15275
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
八代 拓也 東京理科大学, 基礎工学部生物工学科, 助教 (00726482)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | RALDH2 / レチノイン酸 / 経口免疫寛容 |
研究実績の概要 |
腸管は体内に存在する器官でありながら常に外界と接しているため、腸管免疫系は多くの病原性微生物に対する感染防御機構を備えている。一方で、腸内細菌や食品由来の抗原に対して腸管免疫系は応答せず、有用菌の共生や食品の消化・吸収を可能にしている。特に、食品抗原に対する免疫反応の低下は、経口免疫寛容と呼ばれ、食品抗原に対する過剰な免疫応答が原因で起こる食物アレルギーの治療に応用されている。腸管免疫系は、他の組織と異なる固有の免疫系を有していることが知られているが、その制御機構は長らく不明であった。近年、腸管樹状細胞がRALDH2という酵素を発現しており、その働きにより食餌由来のビタミンAをレチノイン酸へ変換することで腸管免疫の恒常性維持に寄与することが報告された。研究代表者はこれまでに、RALDH2の発現を亢進する食品成分の探索を行い、培養細胞レベルでいくつかのポリフェノールがRALDH2の発現を亢進することを見出してきた。本研究では、ポリフェノールによるRALDH2発現亢進機構を解明し、腸管免疫に及ぼす影響を解析している。 本年度は、ポリフェノールによるRALDH2発現亢進機構の解析を行った。RNAiやアゴニスト、アンタゴニストを用いた解析の結果、転写因子AhRがRALDH2遺伝子発現の負の調節因子であり、ポリフェノールはその機能を阻害することによってRALDH2発現を亢進することを見出した。 今後は、ポリフェノールを摂取することで腸管樹状細胞でのRALDH2発現が亢進し、腸管免疫の改善に繋がっていくかについて解析していく予定である。 本研究の成功は、腸を介した病原菌の感染予防や食物アレルギーに対する経口免疫寛容の応用に繋がると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのところ、フラボノール類に属するKaempferolにRALDH2発現亢進作用があることが明らかとなっている。その他のフラボノール類やフラボン類に属するポリフェノールにもRALDH2発現亢進作用があることから、これらは同一の受容体を介して作用していると推察される。過去の報告では、AhR (Aryl hydrocarbon receptor)やLXR (Liver X receptor)などが、フラボノール類及びフラボン類の機能発現に関与することが報告されている。 そこで本年度は、骨髄由来培養樹状細胞において、これらの受容体をsiRNAを用いてノックダウンし、フラボノールやフラボンによるRALDH2発現亢進が消失するかについて解析した。その結果、AhRをノックダウンした場合、RALDH2 mRNA量が増加し、且つポリフェノール処理によるRALDH2発現亢進作用が消失した。一方で、LXRノックダウンは影響を及ぼさなかった。AhRのアゴニストであるTCDD (Tetrachlorodibenzodioxin)及び、アンタゴニストであるCH223191を用いてRALDH2発現への影響を解析したところ、TCDD処理によりRALDH2発現が減少し、CH223191処理によりKaempferol処理時と同様RALDH2発現が増加した。以上の結果から、AhRはRALDH2遺伝子発現の負の制御因子であり、KaempferolはAhRにアンタゴニスト様に作用することでAhRによるRALDH2遺伝子発現抑制を解除すことが明らかとなった。 当初の目的であったポリフェノールによるRALDH2遺伝子発現亢進の分子機構が明らかになったことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はマウスにポリフェノールを経口摂取させ、腸管の樹状細胞においてRALDH2の発現および活性が亢進するかについて検討する。これまでのin vitro実験の結果、RALDH2発現を亢進するフラボノールとフラボンを複数種見出しているが、in vivoの実験では微妙な代謝経路の違いにより発現亢進作用が増強あるいは消失する可能性がある。これらのポリフェノールの中で最もRALDH2発現を亢進するポリフェノールを同定し、その後、摂取量や摂取期間の条件検討を行う。生体内においてポリフェノールによるRALDH2の発現上昇が確認できたら、腸管膜リンパ節や粘膜固有層、パイエル板といった腸管関連組織における制御性T細胞や腸管ホーミング分子を発現しているT細胞およびB細胞の割合をフローサイトメトリーにて確認する。 またポリフェノールの摂取が経口免疫寛容の成立に寄与するかについても検討する。経口免疫寛容は卵白アルブミン(OVA;Ovalbumine)を含む飲水を7日間自由摂取さることで誘導でき、脾細胞をOVAで刺激した際のIL-2産生の低下を指標として評価する。本研究では、OVA含有飲水摂取期間を短縮していき、免疫寛容が成立しないあるいは効果が減弱化する条件を探し出す。OVA含有飲水摂取期間が決定したら、同じ期間に特定したポリフェノールとビタミンAを摂取させ、脾細胞をOVAで刺激した際のIL-2産生を解析することで、経口免疫寛容の成立にポリフェノールが与える影響を評価する。
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