研究課題/領域番号 |
17K15279
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
大森 勇門 大阪工業大学, 工学部, 講師 (90570838)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 結合態D-アミノ酸 / タンパク質・ペプチド / 食肉 |
研究実績の概要 |
29年度までにアルカリ性条件下では加水分解よりもペプチド状態での異性化の方が進行しやすいこと、逆に酸性条件下では加水分解が進行しやすく、ペプチド状態での異性化はほとんど起こっていないことを見出していた。30年度はアルカリ条件下におけるペプチド状態での異性化が、N末端とC末端残基でどちらがより進行しやすいのか検討した。重水中で加熱処理を行ったLLジペプチドをHPLCに供し、異なる光学活性をもつジペプチドのピークを分取した。分取したサンプルのMS/MS解析を行うことで、N末端とC末端どちらに重水素が付加しているのか確かめた。その結果、どちらの残基にも重水素が付加している、つまり異性化が起きていることが明らかになった。 30年度は肉類に着目して結合態D-アミノ酸の分析を実施した。牛(こま切れ)、豚(モモ)、鶏(ササミ)について、生(処理なし)、焼いたもの(フライパンで6分)、茹でたもの(鍋で8分)を用意した。タンパク質を抽出し、酸加水分解を行うことで結合態D-アミノ酸が存在するかどうかHPLCにて解析した。全てのサンプルにおいてAsp, Ala, Met, ValのD体に由来するピークが検出された。ただしこれらについては、酸加水分解時に生じた副産物である可能性も考えられる。一方ArgのD体が鶏肉では高濃度検出されたのに対して、牛肉では全く検出されなかった。このことから鶏肉、特にササミに結合態D-Argが多く含まれていることが示唆された。加熱処理については、焼き、茹でともに牛肉、鶏肉については存在量が大きく変化するアミノ酸は検出されなかった。一方で豚肉については、ValとMetの存在量が加熱(焼きと茹で両方において)により2倍近く上昇することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
肉や魚などの食材に由来するタンパク質中の結合態D-アミノ酸に関する解析については、30年度にて肉(牛、豚、鶏)を対象として解析を実施した。その結果D-Argは鶏肉由来のタンパク質を酸加水分解したときのみ検出され、また加熱処理では豚肉においてのみ、ValとMetの存在量が2倍に上昇した。以上のように肉の種類により存在する結合態D-アミノ酸が異なる可能性を示す結果が得られたことは興味深い。 Aspジペプチドを用いての加熱処理に対する異性化の影響については、アルカリ条件下での異性化がN末端とC末端のどちらで進行しやすいかMS/MS解析を行うことで明らかにしようとした。30年度における解析でどちらの残基についても異性化していることが示唆されたものの、定性的な結果しか得られておらずどちらでより進行しやすいのかについては明らかにすることはできていない。 結合態D-Valを含む食品ペプチドについては、D-Valが増加する製造工程で行われている操作や使用されている試薬についての解析は進んでおらず、30年度における成果は得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
結合態D-Val含有ペプチドの解析については、29年度の解析で明らかになった結合態D-Valが増加する製造工程で行われている操作や使用されている試薬について解析を進め、異性化を促進する要因を明らかにしていく。 31年度は肉類に関して30年度の研究で得られた結果について再現性を確認する。また部位の違い(鶏肉のムネ、モモ、ササミなど)により検出される結合態D-アミノ酸が異なるのかについて検討する。今回処理した加熱時間(焼き6分、茹で8分)では結合態D-アミノ酸の量に大きな変化は見られなかった。そこで処理時間を変えたサンプルを調製して分析を行う。さらに魚由来のタンパク質などについても検討を行う。 合成ペプチドを用いての解析については、Aspのジペプチドではどちらの末端で異性化しているのか解析するのは困難であるため、異なるアミノ酸からなるジペプチドを新たに入手して解析する予定にしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年3月24日から27日までの国内出張(農芸化学会への参加)に係る費用7万6千円が4月支払いとなるため、95,831円を次年度の予算として繰り越すことにした。旅費支払い後の残高19,813円については次年度予算と合わせてジペプチド購入時の予算として使用することにした。
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