研究実績の概要 |
平成30年度までにAspジペプチドに対してアルカリ性条件下で加熱(100, 121℃)することによりペプチド状態での異性化が進行しやすいことを見出していた.令和元年度は加熱処理時の異性化について再現性を確認した.続いて令和元年度はUV照射(254 nm)による影響を試験した.48 h照射して異性化と分解が生じるかHPLCにて確認したが,ほとんど変化は見られなかった.この結果より,少なくとも254 nmのUVを照射してもペプチド中での異性化は起こらないことが示唆された.さらに別の条件としてマイクロ波による影響を確認した.市販の電子レンジを使用し、700 Wにて20, 40, 60, 120 sec加熱した.Aspジペプチド(LL)は酸性,中性,アルカリ性の溶液で溶解した.酸性条件では継時的なジペプチドの分解が確認できたが異性化は見られなかった.また中性においては分解,異性化ともに確認できなかった.一方アルカリ性においては,60 sec照射でほとんどのジペプチドが加水分解され遊離Aspに変化した.また興味深いことに40~120 secの照射時に異性化したジペプチドが検出され,そのピークは60 secのときに最も高かった.このことから,マイクロ波照射においては比較的短時間で異性化が起きていることが示唆された. 食品中の結合態D-アミノ酸については,昨年度行った肉類の再現性をとるため再度牛,豚,鶏について生(処理なし),焼いたもの(フライパンで6分),茹でたもの(鍋で8分)を用意して解析した.その結果,全てのサンプルでAsp, Ala, Met, ValのD体に由来するピークが検出されたことについては再現性が得られたが,鶏肉でD-Argが多く検出されたことや豚肉でValとMetの存在量が加熱により2倍近く上昇したことについての再現性は得られなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
肉や魚などの食材に由来するタンパク質中の結合態D-アミノ酸に関する解析については,令和元年度は肉(牛,豚,鶏)について再度試験を行った.しかしながら平成30年度に観察されたような特定の肉類に,特定の結合態D-アミノ酸が見られることはなかった.Asp, Ala, Met, ValのD体に由来するピークが全ての肉類で検出されたことは再現性がとれたが,その存在比は個体差が大きいためか差が大きかった.肉以外の食材についても現在のところ解析はできていない. Aspジペプチドを用いての様々な加工処理に対する異性化の影響については,令和元年度は新たにUVとマイクロ波の影響を確認した.UVについては異性化の促進は認められなかった.一方でマイクロ波に関しては,アルカリ条件下に限るが短時間の照射(60 sec程度)で異性化が起こることを見出した.また照射後の溶液の温度を確認すると50℃以下であり,これまでにこのような低い温度で尚且つ60 secという短時間での異性化は確認できていないことから,ペプチド中の異性化に対して電磁波が大きく寄与する可能性が認められたことは大変興味深い成果である. 結合態D-Valを含む食品ペプチドについては,共同で研究を実施している企業から多数のサンプルを提供して頂き分析を行った.しかし現在解析の途中であり,まだ報告できるような成果は得られていない.
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