デスモイド腫瘍細胞は希少腫瘍であり、細胞株も樹立されていない。そのため、効果のある薬剤を網羅的に探索するような細胞実験系もなく、標準的な薬剤治療法は確立していないと言える。 前年度までのクローニングで得られていた4種類の細胞株(上皮性のマーカーを発現しておらず、alpha-SMAおよびvimentinを強く発現している株)が、生体に移植した際にどのような組織像を呈するのかを、まず検討した。4種類の細胞株を、免疫不全(NOD/SCID)マウスの皮下に移植し、得られた皮下腫瘍の病理学的な解析を行った。H&E染色により組織を確認したところ、4種類の細胞株中、特に2種類において、紡錘形を呈する間質細胞により形成される特徴的な束状配列が見られた。さらに、腫瘍の一部では血管新生や筋組織に浸潤している像を確認することもできた。また、マッソントリクローム染色により、デスモイド腫瘍の特徴である膠原線維の増生、免疫化学染色によりvimentinおよび alpha-SMA陽性、CD34陰性であることが確認できた。 そこで次に、現在臨床の現場で実際に治療に用いられている薬剤(celecoxibおよびsulindac sulfide)の作用について検討した。上記移植モデルにおいてデスモイド腫瘍の特徴が認められた2種類の細胞株についてin vitroで検討したところ、両薬剤で濃度依存的な細胞増殖の抑制作用が認められた。特にcelecoxibは、これらの細胞に対し強いアポトーシス誘導作用を有していることが明らかとなった。このことから、これら2種類のクローンは、デスモイド腫瘍としての特徴を有しており、デスモイド腫瘍の治療および予防に有用な食品因子の探索に有用であることが示唆された。以上の成果は、今後デスモイド腫瘍の治療および予防法の確立につながる基盤的知見になると考えられる。
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