研究課題/領域番号 |
17K15287
|
研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
泉津 弘佑 滋賀県立大学, 環境科学部, 助教 (20579263)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 外生菌根菌 / 遺伝子ノックアウト / ホンシメジ / アカマツ |
研究実績の概要 |
今年度の研究計画は、ホンシメジのKU80遺伝子の破壊株を作出することであった。申請期間に入る前から実験に着手し、まず最初にKU80遺伝子の上流および下流の約1-2kbと薬剤耐性マーカーHPHを含むプラスミドベクターを作出し、アグロバクテリウムのコンピテントセルへと導入した。このKU80遺伝子破壊用アグロバクテリウム菌株を用いて、ホンシメジの野生株であるb11株の遺伝子破壊を試みた。最終的に363株のハイグロマイシン耐性株を得ることができ、PCR法によって遺伝子破壊の成功の有無を調べた結果、1株の破壊株を得ることができた。これは、我々の知る限り外生菌根菌において初めての遺伝子破壊の成功となった。しかし、相同性組換えの効率は0.3%(1/363株)と極めて低いものであった。次に、このKU80破壊株を用いて、実際に菌根共生や子実体形成に関与していると予測される遺伝子である3種のMAPキナーゼ(LsCHK1, LsMPK1, LsHOG1)およびPKA(LsPKA1)の破壊に着手した。それぞれの遺伝子の上流1-2kbおよび下流1-2kbと薬剤耐性マーカーであるNATを含むプラスミドベクターを作出した。これらの遺伝子破壊用プラスミドをアグロバクテリウムのコンピテントセルへと導入した。今年度はLsMPK1破壊用のアグロバクテリウムを用いて、KU80遺伝子破壊株を親株に遺伝子破壊を試みた。その結果、3株のノーセオスリシン耐性株が得られ、3株すべてが遺伝子破壊株であった。遺伝子破壊の効率は100%であり、野生株に対する効率と比較すると飛躍的に上昇していた。今後はまず、LsMPK1破壊株の宿主植物アカマツとの共生能力を調査していく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の最大の目標であったKU80遺伝子の破壊に成功した。近年、担子菌類での遺伝子破壊の成功が次々と報告されているが、外生菌根菌においての成功例はなかったことから、極めて大きい成果であると考えられる。次に、このKU80遺伝子破壊株を親株とすることで、最終的な目標の1つと設定していたKSS1型MAPキナーゼ遺伝子LsCHK1の破壊に成功した。また、KU80の破壊による相同性組換え効率の飛躍的上昇も確認された。これは、当初の予定よりも比較的すすんでおり、また今後の研究にも大きくつながるものである。申請書に記入した数よりも多くの種類の遺伝子破壊にも着手している。このため、当初の計画以上に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降は、まずKU80遺伝子を親株とすることで、3種のMAPキナーゼ(LsCHK1, LsMPK1, LsHOG1)、PKA(LsPKA1)、NADPHオキシダーゼの制御因子(LsNoxR)、オートファジーの中心的因子(LsATG8)などの破壊を進めていく予定である。このうち、LsMPK1の破壊株はすでに得ており、LsCHK1、LsHOG1、LsPKA1についてはすでに着手している。これらの遺伝子破壊の効率を測定するとともに、遺伝子破壊株を用いて宿主植物アカマツとの共生試験をすすめていく予定である。また、遺伝子破壊株を相補するために新たな薬剤耐性マーカーが必要となっている。そのため、カルボキシンなどの薬剤を対象に、薬剤耐性マーカーの作出を行う。マーカーが作出できた場合には、各遺伝子破壊株の相補試験を行う。また、ランダム突然変異手法を用いて、ホンシメジのランダム突然変異株ライブラリを作出していく。得られた株は宿主植物アカマツとの共生試験を行い、共生能力の欠損株のスクリーニングを進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度にさらに多くの遺伝子破壊試験、遺伝子組換え試験を予定しているため。
|