研究課題/領域番号 |
17K15293
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
遠藤 太佳嗣 同志社大学, 理工学部, 准教授 (50743837)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イオン液体 / セルロース / 溶解 |
研究実績の概要 |
セルロースのイオン液体への溶解性を、分子・ナノレベルで評価するため、イオン液体の構造を系統的に変え、様々な濃度でのセルロース/イオン液体混合物を調製し、その広角/小角X線散乱の測定を行った。 イオン液体はまずカチオンを[Emim]で固定し、アニオンを、基準の[OAc]、よりサイズが大きくかつ立体的な[DMP]、及び、最も小さくかつ構造が単純なCl、の3つを選択した。しかしながら、[Emim][DMP]及び[Emim]Clでは、室温で直ぐに結晶化してしまい、加熱なども行ったが、セルロースとの混合が適切に行えなかった。そこで、カチオンを側鎖が長く融点が低くなりやすい[Bmim]系に変えて、上述の3種のアニオンで再び実験を行った。これまで行われてきた目視によるマクロな溶解度の観察では、[OAc]≧[DMP]>Clであることが分かっている。今回行った実験でも、WAXSパターンのセルロース結晶構造の崩れ度合いから、同様の傾向が得られた。しかしながら、その最大溶解度は、目視で得られた結果と著しく異なっていた。室温では、これらのイオン液体のセルロース溶解度は数wt%と報告されていたが、セルロース結晶構造の崩れという観点からは、40 wt%という極めて高濃度でも溶解していることが明らかになった。これは、以前我々が[Emim][OAc]で観察した、アニオン架橋現象(一つのアニオンで複数のセルロースOH基と相互作用する現象)が原因であると推察できる。即ち、アニオン架橋現象が、イオン液体に普遍的に起きる現象であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成29年度の進捗状況において、当初の計画よりも遅れている原因としては、3つ挙げられる。 1つ目は、個人的な事情になるが、異動があったため、研究体制が大幅に変更(縮小)されてしまったこと、及び研究設備の立ち上げに時間がとられたことである。現在、固体NMRでの測定を除き、おおよそ当初の計画通りの研究体制及び設備が整った。 2つ目は、混合方法の検討に時間を取られたことが挙げられる。「研究実績の概要」で述べた通り、[Emim]系イオン液体では、室温で結晶になることが多い。混合時に共溶媒を用いれば、この問題が解決すると考えた。さらに共溶媒を用いれば、イオン液体とセルロースの混合性が上昇する、即ち、実験の再現性が上がると予想された。種々実験条件を検討したが、結論としては、共溶媒の方法は上手くいかなかった。よって、今後も従来通りの混合方法で進めていくこととした。 3つ目は、「研究実績の概要」で述べたように、当初の計画では、これまで成果の上がっている[Emim][OAc]を基準の試料として進めるはずであったが、アニオンを[OAc]以外にすると、室温で液体ではなく結晶であるものが多く、実験が困難となった。カチオンを[Bmim]に変えることで、室温で液体となったが、[Bmim]系だと、イオン液体そのものに、長いアルキル側鎖の凝集に対応した、WAXSピークが出てしまい、今後の解析に問題を抱えている。
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今後の研究の推進方策 |
側鎖にエチル基を持つ[Emim]系では、イオン液体の融点が高くなり、側鎖にブチル基を持つ[Bmim]系では、長いアルキル側鎖の凝集によるWAXSパターンが出現してしまう。そこで今後は、その間の鎖長であるプロピル基を持つ[Pmim]系のイオン液体で進める予定である。 また、当初の計画では3系統のイオン液体群それぞれで、4~8種類程度のイオン液体を合成し、測定を行う予定であったが、計画通り進めるには時間が足りなくなる可能性がある。そこで、最も合成の難しいと思われる、「目的2-1.カチオン水素結合供与能の寄与」でのイオン液体の合成は後回しとし、他の系から実験を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度末の時点で、21円の残額があったが、少額であったため、無理に使用することはせず、次年度へと繰り越した。少額であるため、次年度での使用計画には特に影響はないと考えられる。
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