研究課題/領域番号 |
17K15296
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
津山 濯 宮崎大学, 農学部, 助教 (40786183)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リグニン前駆物質 / トランスポーター / ポプラ / 分化中木部 / コニフェリン / PMF分析 / p-グルコクマリルアルコール |
研究実績の概要 |
木質バイオマスの有効活用を目指し、リグニンの生合成に関して多くの研究がなされてきたが、樹木分化中木部におけるリグニン前駆物質の細胞内から細胞外への輸送メカニズムについては、未だ概略すら明らかになっていない。これまでコニフェリルアルコールの配糖体であるコニフェリンのATP依存的輸送活性が広く木本植物に存在することを明らかにしてきたが、コニフェリンがどこにどのように輸送され、木化に用いられるかは明らかではない。そこで木本植物におけるリグニン生合成メカニズムの解明に寄与することを目的として、ポプラ分化中木部におけるコニフェリン輸送体の同定を目指した。 ポプラ分化中木部の組織を採取し、ミクロソーム膜画分を調製後、不連続ショ糖密度勾配法によりミクロソーム膜画分を分画した。各画分でのコニフェリン輸送活性を測定し、輸送活性の高い画分および低い画分を得た。続いて、得られた膜画分を二次元電気泳動に供した。その結果、不連続ショ糖密度勾配法により分画した膜画分間でパターンが異なる二次元電気泳動像を再現性良く得ることができた。輸送活性の高い画分に特異的、あるいは輸送活性の高い画分でよりタンパク質量が多いスポットを選び出し、PMF分析を行った。ポプラのゲノムデータセットを用いて解析を行ったところ、分析を行ったほぼ全てのスポットから二次元電気泳動の結果とよく一致するタンパク質が同定された。 また、ポプラ分化中木部ミクロソームを用いてリグニン前駆物質の輸送活性を求めたところ、H核前駆物質であるp-グルコクマリルアルコールのATP依存的な輸送活性が存在することを新たに明らかにした。この活性はバナジン酸では阻害されず、バフィロマイシンA1で大きく阻害されたことから、p-グルコクマリルアルコールの輸送には、V-ATPaseが関与することが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
木本植物におけるリグニン生合成メカニズムの解明に寄与することを目的として、ポプラ分化中木部におけるコニフェリン輸送体の同定を行うことを目指している。ポプラ分化中木部からミクロソーム膜画分を調製後、不連続ショ糖密度勾配法により分画し、コニフェリン輸送活性の非常に高い画分と、低い画分を得た。得られた膜画分を二次元電気泳動に供したところ、不連続ショ糖密度勾配法により分画した膜画分間でパターンが異なる二次元電気泳動像を再現性良く得ることができた。輸送活性の高い画分に特異的、あるいは輸送活性の高い画分でよりタンパク質量が多いスポットを選び出し、PMF分析を行った。ポプラのゲノムデータセットを用いてタンパク質の同定を行ったところ、分析を行ったほぼ全てのスポットから二次元電気泳動の結果とよく一致するタンパク質が同定された。予想される機能によるタンパク質の絞り込みを行っているところであるが、膜貫通ドメインを持つタンパク質をより多く同定するため、現在PMF分析条件の検討を行っている。 今回、当初の計画に加え、ポプラ分化中木部におけるp-グルコクマリルアルコールのATP依存的な輸送活性を明らかにした。この活性はバナジン酸では阻害されず、バフィロマイシンA1で大きく阻害された。このことから、p-グルコクマリルアルコールの輸送にはV-ATPaseが関与することが示唆された。不連続ショ糖密度勾配法による分画膜を用いた実験では、p-グルコクマリルアルコールの輸送活性は密度の小さい膜画分で高かった。マーカー抗体を用いたウエスタンブロッティングの結果、p-グルコクマリルアルコールの輸送活性パターンと近い傾向を示したものは細胞内膜系のマーカーであるV-ATPaseであった。この結果は阻害実験の結果を支持し、p-グルコクマリルアルコールの輸送にはV-ATPaseが関与することが示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
ポプラ分化中木部におけるコニフェリン輸送体の同定に向けて、コニフェリン輸送活性の高い膜タンパク質画分からPMF分析による候補膜タンパク質の絞り込みを進める。まずは二次元電気泳動およびPMF分析の更なる条件検討により、輸送活性の高い画分特異的なタンパク質の同定数を増やす。不連続ショ糖密度勾配法により分画した膜画分を、電気泳動による分離無しにPMF分析に供することも検討する。これらより同定した輸送活性の高い画分特異的なタンパク質から、膜貫通ドメインなどタンパク質の構造解析、あるいは候補遺伝子の組織別の発現解析などにより、分化中木部におけるコニフェリン輸送体の候補を絞り込む。 続いて候補遺伝子のクローニングを行い酵母に発現させる。ポプラゲノムデータベースの情報を元にプライマーを設計し、絞り込んだ遺伝子の全長cDNAをRT-PCRにより単離する。得られたcDNAをベクターに組み込み大腸菌内で複製、プラスミドを抽出精製後、塩基配列の確認を行う。配列の確認ができた候補遺伝子のcDNAを酵母発現用ベクターに組み込み、酵母を組換える。組換え酵母を選択培地で選抜後、誘導培地を用いて目的候補タンパク質を大量発現させる。目的タンパク質の発現および局在はSDS-PAGEおよび各種タグを用いて確認する。 また、ポプラ分化中木部におけるp-グルコクマリルアルコールの輸送活性について、詳細なメカニズムの解明に向けて阻害剤の種類を増やし解析する。さらに生化学的輸送実験により、樹木分化中木部あるいはタケ当年稈における新たなリグニン前駆物質の輸送活性が無いか調査する。これらにより得られるリグニン前駆物質の輸送に関する知見、リグニン前駆物質輸送体に関する知見は、随時、輸送体の同定に向けた実験に反映していく。
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