木質バイオマスの有効活用を目指し、リグニンの生合成に関して多くの研究がなされてきたが、樹木分化中木部におけるリグニン前駆物質の細胞内から細胞外への輸送メカニズムについては、未だ概略すら明らかになっていない。これまでコニフェリルアルコールの配糖体であるコニフェリンのATP依存的輸送活性が広く木本植物に存在することを明らかにしてきたが、コニフェリンがどこにどのように輸送され、木化に用いられるかは明らかではない。そこで木本植物におけるリグニン生合成メカニズムの解明に寄与することを目的として、ポプラ分化中木部におけるコニフェリン輸送体の同定を目指した。 ポプラ分化中木部の組織を採取し、コニフェリン輸送活性の高いミクロソーム膜画分をプロテオーム解析して、34の候補タンパク質を絞り込むことに成功した。ポプラ分化中木部から全RNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを作製した。候補遺伝子のコーディング領域を得てクローニング後、塩基配列を確認した。植物での過剰発現用バイナリーベクターpGWB605に候補遺伝子を挿入し、組換えアグロバクテリウムを作製後、タバコBY-2細胞に感染させ、機能解析を目指した。 さらに、モウソウチク当年稈からミクロソーム膜画分を調製しリグニン前駆物質の輸送活性を求めたところ、コニフェリンとp-グルコクマリルアルコールの輸送活性が見られた。これらの輸送メカニズムは、V-ATPaseとH+勾配が関与するものであり、これはポプラおよびヒノキにおける輸送メカニズムと同一であった。これらのことから、針葉樹、広葉樹、および単子葉類の木化組織において、コニフェリンおよびp-グルコクマリルアルコールの輸送メカニズムが保存されていることが示唆される。幅広い植物種の木化組織に、相同性の高いコニフェリン輸送体、およびp-グルコクマリルアルコール輸送体が存在している可能性がある。
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