木材を外装材として長期間使用する場合、太陽光による光劣化を抑制するための耐光化処理を施す必要がある。しかし、耐光化処理の効率化を図る際に重要となる木材の光劣化機構に関しては未解明な点が多く残されている。本研究では、木材の耐光化処理の効率化・高度化を目指し、木材の光劣化機構を細胞レベルで解明することを目的とした。 最終年度では、塗装により耐光化処理した木材中における樹脂や顔料等の分布について、顕微ラマン分光法により可視化できることを示した。そして、促進耐候性試験機を用いて光照射試験を実施した塗装試験体に対してラマンイメージングを行い、試験体の表面付近に分布する塗料成分および細胞壁成分の劣化状態を評価した。その結果、屋外南向き45度傾斜での曝露の場合約1~2ヵ月間に相当する促進耐候性試験167時間後においては、外観的な変化や塗料成分の劣化は起きないが、基材表面付近の細胞壁では塗膜を透過した紫外線の影響によりリグニンの劣化が進行し、塗膜と細胞壁の界面に微細な剥離が生じることが明らかとなった。 研究期間全体を通じて、促進耐候性試験機による人工太陽光および多波長分光照射器による波長別光を木材に照射し、主に顕微ラマン分光法により木材の光劣化機構を解析した。深さ分析により細胞壁成分の光劣化深さを精密に計測した他、劣化表層部においてラマンイメージングを行い、成分変化を細胞レベルで可視化したことで、細胞壁が光の影響により劣化し崩壊に至るまでの挙動を明らかにした。また、木繊維や道管、柔細胞など組織の種類により光劣化挙動が異なることや、照射する波長の違いにより影響を受ける細胞壁成分が異なることを示した。さらに、塗装木材中における塗料成分の微視的分布および光照射による塗料・細胞壁成分の劣化挙動を明らかにした。以上の成果は、耐候化処理の設計を行うための基礎的な知見であり、耐候性能付与技術の発展に資する。
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