研究課題/領域番号 |
17K15300
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
三好 由華 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 任期付研究員 (50781598)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 木材 / 有機液体 / 脱リグニン処理 / 脱ヘミセルロース処理 / 動的粘弾性 / 曲げ特性 |
研究実績の概要 |
当該年度は、液体分子が木材中のどこに存在し、どのように力学的性質の発現に関与するか考察することを目的として以下の検討を行った。 脱成分処理によって木材からリグニンやヘミセルロースを選択的に除去したホオノキの半径方向試験片を作製し、各処理試験片を水および4種類の有機液体で膨潤させた後、膨潤率、曲げ特性、動的粘弾性を測定した。有機液体には、エチレングリコール(EG)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール(EtOH)、アセトン(Act)を用いた。この液体を選んだ理由は、分子容、水素結合能、凝集エネルギー密度が液体間で大きく異なることに加え、既往の研究から木材への吸着性に関する知見も得られているためである。 DMSO、EtOH、Actで膨潤させた試験片では、リグニンを軽度に除去することによって、無処理の状態よりも膨潤率が低下し、曲げ弾性率や強度が増加した。この傾向は、ヘミセルロースの除去によるよりも顕著に認められたことから、DMSO、EtOH、Actは木材構成成分の中でもリグニンを膨潤させることによって弾性率や強度の低下に寄与していると考えられた。EGで膨潤させた試験片では、ヘミセルロースを除去することによって、無処理の状態よりも膨潤率が増加し、曲げ弾性率が大きく低下した。同様の条件の試験片におけるリグニンの熱軟化温度(動的粘弾性測定から得られたtanδのピーク温度)に着目すると、ヘミセルロースを除去した試験片は、無処理の状態よりも熱軟化温度が大きく低温側へシフトした。曲げ試験および動的粘弾性測定の結果から、EGで膨潤した試験片では、ヘミセルロースを除去することによって、リグニンの膨潤が促進され、弾性率の低下や熱軟化温度の低下が生じると考えられた。 得られた結果から、試験片の膨潤量や力学的性質の変化には、リグニンの膨潤が密接に関わることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、有機液体で膨潤した状態における脱成分処理木材の曲げ特性を明らかにすることができた。また、曲げ試験に加えて動的粘弾性の温度依存性も測定したため、木材構成成分の中でもリグニンの状態に関する情報を直接的に得ることもでき、考察を深めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、昨年度までに得られた結果を参考に、木材の変形能が極力大きくなるような処理条件や膨潤液体を用いた条件下で力学試験を行い、木材の変形が最も増大する条件を明らかにする。また、木材の膨潤には、一種類の有機液体だけでなく、二種類~数種類の混合有機液体も用いる予定である。変形を増大できる条件が明らかになれば、その条件を応用して3次元の成型体の試作も行い、本研究から得られた知見の応用の可能性についても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の予定に即して使用できたが、端数の金額が生じたため次年度へ繰り越しとなった。次年度は、試験用の木材の購入、試験片の化学処理や膨潤処理のための試薬や実験器具の購入、学会発表や論文投稿の費用として使用する。
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