当該年度は、木材の変形能が最も増大する条件を明らかにすることを目的として以下の検討を行った。 アセチル化処理、脱リグニン処理および脱ヘミセルロース処理を施した後、水および数種の有機液体で膨潤させたホオノキの半径方向試験片を用いて、液体が脱着する過程におけるクリープ試験を行った。化学処理および脱成分処理の影響を比較するために、無処理の試験片についても同様の試験を行った。液体の脱着過程でクリープ試験を行った理由は、水で膨潤させた木材では、含水率変化のない定常状態と比較して、水が脱着する過程、すなわち水分非定常状態でクリープ変形量が大きいことが、既に報告されているためである。用いた液体は、水、エタノール、アセトンに加え、水とエタノールの混合液(モル分率0.8:0.2)、水とアセトンの混合液(モル分率0.8:0.2)とした。これらの混合液の濃度は、エタノールおよびアセトンの活量が理想挙動から著しく増加する領域として知られている。各試験片のクリープ荷重は、曲げ試験から得られた最大荷重値の10%とし、試験片ごとに荷重値を調整した。 無処理試験片と比較して、アセチル化処理試験片のクリープ量は、アセトンを除いた全ての膨潤液体で減少した。アセチル化処理試験片を除いた各試験片において、単一の液体よりも混合液で膨潤させた条件でクリープ量が大きかった。この結果は、脱リグニン、脱ヘミセルロース処理試験片で特に顕著であった。最も変形量が大きかった、脱ヘミセルロース処理試験片を水とアセトンの混合液で膨潤させた条件では、無処理試験片を水で膨潤させた条件に対して30倍ものクリープ量を示した。 以上の結果から、クリープ変形量が著しく増大する条件を明らかにすることができた。また、液体脱着過程におけるクリープ変形量は、木材構成成分と膨潤液体の親和性の影響を受けて大きく変動することを示唆する結果も得ることができた。
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