研究課題/領域番号 |
17K15301
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
美野 さやか 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (00755663)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Epsilonproteobacteria / 熱水活動域 / MLSA / 微生物分布 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、深海底熱水活動域に生息するコスモポリタン微生物の環境適応戦略を多角的に明らかにするとともに、熱水孔環境に生息する微生物の遺伝的多様性解析を生かした新たな海洋循環評価法の基盤を構築することにある。平成29年度は、日本近海に位置する沖縄トラフをモデルフィールドとし、1) 浅海熱水活動域での試料採取、2) 浅海および深海底の熱水活動域に優占する微生物の分離培養、3) 優占微生物の遺伝子情報解析を中心的に進め、以下の結果を得た。 ・沖縄トラフ最南端に位置する台湾亀山島浅海熱水活動域から、Epsilonproteobacteria綱Sulfurimonas属およびSulfurovum属に属する計12株の分離培養に成功した。16S rRNA遺伝子塩基配列解析から、新種の可能性があることが示された。 ・沖縄トラフの深海底熱水活動域由来の試料から、新たにEpsilonproteobacteriaやPersephonellaに属する常温~好熱菌11株の分離培養に成功した。この中には、新種の可能性を持つものも含まれていた。 ・Multilocus Sequence Analysis(MLSA)法による遺伝的多様性解析のためプライマーを設計し、1株につき6~8つのハウスキーピング遺伝子の塩基配列を得た。沖縄トラフ内の深海底および浅海熱水活動域由来のSulfurovumおよびSulfurimonasの遺伝的多様性を比較したところ、浅海熱水活動域由来株と深海底熱水活動域由来株ではその遺伝的特徴が異なり、種分化していることが示唆された。 ・アレルタイピング解析の結果、深海底熱水活動域由来株間では同じアレルタイプが検出されるが、浅海熱水活動域由来株とはアレルタイプをシェアしていなかったことから、浅海と深海底の熱水活動域間では遺伝子交流が起こっていないことが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度中に、沖縄トラフに位置する浅海および深海底の熱水活動域から優占種であるEpsilonproteobacteriaを含む化学独立栄養細菌を数十株、分離培養した。さらに、これらを対象とした詳細な遺伝子解析から、沖縄トラフにおいて、浅海と深海底の熱水活動域では微生物の遺伝的特徴が異なることを見出し、浅海と深海底間での分散が制限されていることを示唆できた点が評価できる。微生物群集構造からみる微生物の分布様式の理解についても、試料の採取・DNA抽出は完了しており、今後の群集構造解析にむけ準備は万端である。以上の点を鑑み、上記判断とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の点に焦点を当て、研究を遂行する予定である。 ①日本近海の浅海性熱水活動域の微生物群集構造の解明 ②沖縄トラフの浅海熱水活動域および深海底熱水活動域に生息する微生物群集構造の比較解析 ③沖縄トラフ熱水活動域由来微生物分離株の網羅的取得および株レベルでの遺伝的多様性と海流の関連性の評価 ④分離株を用いたエネルギー代謝の多様性評価
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、微生物群集・機能、およびゲノム情報解析に使用予定であったが、研究の進捗状況から、翌年の使用としたため。
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