本研究の目的は,深海底熱水活動域に生息するコスモポリタン微生物の環境適応戦略を多角的に明らかにするとともに,熱水孔環境に生息する微生物の遺伝的多様性解析からみる分布様式の理解から新たな海洋循環評価法の基盤を構築することにある。2020年度は,2018年度および前年度に得られたデータの再解析,2)沖縄トラフ最南端の台湾亀山島熱水フィールド由来の分離株の性状評価およびゲノム解析を中心に進め,以下の結果を得た。 ・沖縄トラフ最南端に位置する台湾亀山島浅海熱水活動域由来の分離株を含むEpsilonproteobacteria綱Sulfurovum属細菌,計33株のMLSAで得られた遺伝子配列情報に基づき,遺伝的多様性に与える分離源間の地理的距離および水深差の影響を評価した。地理的距離に加えて,水深という垂直方向の距離も遺伝的多様性と有意な相関を示したことから,これらはSulfurovumの分布を決定する要因となることが示唆された。 ・沖縄トラフ深海・浅海熱水孔環境における微生物群集構造の比較を行うために,データベースに登録されているデータも含めたQIIME2での群集構造解析を進めた。異なる深海熱水孔間で同一のASV (amplicon sequence variant)を構成するリードが検出されなかったことから,メタ16S解析での集団間の連結性を評価するには至らなかった。 ・本研究で得られた分離株のうち,新規性の高い台湾亀山島熱水フィールド由来株の性状評価および完全ゲノムを決定した。性状評価については,定性的・定量的評価を可能とする方法論を構築した。
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