沿岸海域において水質と生物生産性の両方を維持するために,各海域に適した栄養塩濃度レベルの管理が求められている。陸域から流入する栄養塩は海域に入ると植物プランクトンに取り込まれて有機態に変化し,大阪湾内では溶存有機態窒素が全窒素のうち最も大きな割合を占めることが知られている.このうち100日間で分解されない難分解性の溶存有機物については多くの研究があるが,一方大阪湾上層水の交換時間は平水時でも20日程度であり分解にそれよりも日数が必要な溶存有機態窒素は,栄養塩に戻るより早く湾外に流出する.分解時間が20日以上100日以内の準易分解性有機物の生成が栄養塩環境に及ぼす影響については不明な点が多い.本研究では,準易分解性溶存有機物の生成が,湾内の栄養塩濃度レベルに及ぼす影響を明らかにすることを目的としている. 平成30年度には,台風の影響を受け十分な現地観測データは得られなかったが,令和元年度には出水時における準易分解性溶存有機物の濃度を得るための現地観測および有機物分解実験を複数回行うことができた.チューニング後の数値モデルを用いて計算した上層水全体の流出量および河川流量に各態窒素の平均濃度を乗じることにより夏季平水時の流入・流出フラックスを求めたところ,湾内で栄養塩に戻ることなく湾外に流出すると考えられる準易分解性DONフラックスは,平水時には淀川から流入するDINフラックスの約5割にあたり,湾内の栄養塩環境に大きな影響を及ぼしていることが明らかになった.
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