研究課題/領域番号 |
17K15303
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
竹内 清治 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (50758844)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アサリ / 稚貝 / 生息場環境 / 漁場管理 / 投石・覆砂 / 足糸 |
研究実績の概要 |
アサリは、足糸を使って砂中の基質(礫、貝殻片等)に付着することで自身の洗掘リスクを低減させている。本種の足糸形成頻度は、個体成長に伴い減少することが知られているが、その具体的な傾向を定量し、その減少が足糸腺(斧足内部にある足糸生成器官)の消失によるものかを示した事例はない。ここでは、これらの課題について野外調査と足糸腺の組織学的観察の組合せにより検討した。アサリの足糸形成頻度を調べるため、長崎県内の潮間帯に位置する4地点を対象に、2018年6月(及び8月)に調査を実施した。現地にて、採取したすべての個体の足糸形成の有無を目視により確認した。実験室にて、殻長・殻高・殻幅、軟体部湿重量を計測し、これらの値から体サイズ(殻体積(= 殻長×殻高×殻幅)の立方根)と肥満度(= 軟体部湿重量/殻体積×10^4)を求めた。一般化線形混合モデルを用いて、足糸形成の有無と体サイズ・肥満度との関係について検討した。また、各個体の足糸腺の有無を確認するため、常法に従い厚さ5 μmの薄切切片を作成し、アルシアンブルー染色液(pH 2.5)により組織染色した試料を光学顕微鏡下で観察した。アサリの足糸形成頻度は、体サイズと肥満度の関数で表され、このことが、足糸形成頻度の地点間差を生じさせていた。具体的に、足糸形成頻度は、体サイズの増加と肥満度の低下に伴い減少した。個体群全体で低い肥満度を示した地点で最低の足糸形成確率(27%)を記録し、反対に、高い肥満度を示した地点で最高値(80%)を記録した。また、組織観察したすべての個体において、足糸腺の存在が確認された。以上より、個体成長に伴う足糸形成頻度の減少は、足糸腺の消失によるものではなく、個体の成長段階・栄養状態に応じた足糸形成へのエネルギー配分の変化によるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アサリ足糸形成頻度に関する野外調査と足糸腺の組織学的観察により、個体成長に伴う足糸形成頻度の減少が足糸腺の消失によるものではなく、個体の成長段階・栄養状態に応じた足糸形成へのエネルギー配分の変化によることが明らかになった。本研究によって得られた知見から、アサリ稚貝の放流における個体の栄養状態の管理が足糸形成頻度に影響し、延いては放流後のそれらの定位率に影響するものと考えられる。なお、本研究成果は、研究代表者を主著とする投稿論文として、関連する国際学術誌に投稿中である。以上の理由から、本研究課題の進捗状況を、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には、野外にて砂礫・カキ殻底を設置し、基質間でのアサリ稚貝の生残率を比較する実験を実施するほか、当初計画していた足糸に関する2課題についても検討する:(1)足糸付着基盤に対する選択性、(2)稚貝の洗堀・散逸防止への足糸形成の寄与。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたアサリ足糸に関する2課題を実施できず、それに関連する物品費(アクリル水槽等の室内実験関連消耗品)・旅費等の使用を見送ったため、次年度使用額が生じた。
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