研究課題/領域番号 |
17K15304
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
上野 大輔 鹿児島大学, 理工学域理学系, 助教 (20723240)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 寄生性カイアシ類 / 熱帯域 / 温帯域 / 水産被害 / 有害種の推定 / 種類相解明 / 分類 |
研究実績の概要 |
本研究では、近年高緯度海域へ分布を広げている海産の熱帯性魚類等と、ともに分布を広げる可能性がある有害な寄生性カイアシ類の推定を行い、将来起こることが予想される水産被害を未然に防ぐ基盤情報とすることが目的である。当該年度には、主に琉球列島中北部から九州南部までにおける沿岸域に分布する寄生性カイアシ類相解明を目指した。実際にカイアシ類採集を目的として奄美群島、大隅諸島、鹿児島本土、天草地方において魚類寄生性カイアシ類調査を実施した。これと併せて、水産種を中心に無脊椎動物についても寄生性カイアシ類調査を実施した。現時点でわかっているだけでも、50種超の寄生性カイアシ類を採集した。現在、主に形態学的情報に基づいて種同定を順次行っているが、未記載種を含め多くが本邦から未記録の種であり、今後これら各種の分布域の割り出しと、熱帯アジアから報告されている種との比較を行うことの必要性が強く感じられた。熱帯アジアでは、インドにおいて古くから寄生性カイアシ類の研究が進められており、主にインド産種との比較を実施する必要がある。そのため、インド南部のアンナ―マライ大学にて寄生性甲殻類の研究を進めるラビチャンドラン博士を訪問し、今後の共同研究打ち合わせを行った。また、追加で沖縄県沿岸と小笠原村沿岸においても実施したほか、温帯魚であるブリが近年になり漁獲されるようになった北海道東岸においても、温熱帯産の寄生性カイアシ類の調査を予備的に実施した。 一連の研究成果の一部については、国内外での学会や研究集会において発表を行ったほか、学術論文として取り纏めて、3報はすでに掲載済み。2報については現在投稿中である。また、九州沿岸で採集された有用水産魚種から採集された寄生性カイアシ類相に関する研究論文とその他分類学的発見意義が大きいと考えられるツブムシ科カイアシ類に関する論文の原稿を現在準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては、多くの海域において寄生性カイアシ類標本の野外採集を計画していたが、特に夏季多く発生した台風の影響を受け、当初予定の中止や調査地の変更などを余儀なくされた。しかし、結果的には当初予定をしていた海域と、それに代わる海域から多数の魚類寄生性カイアシ類を採集することに成功した。南日本における寄生性カイアシ類相の研究は、申請者が実施する以前は網羅的に取り組まれた歴史的背景を持たない。そのため、得られる知見のほぼ全ては新知見となりうる。このうち、特に多くの魚類を調査することができた沖永良部島と九州本土南部においては、未記載種であることが明らかになっている種も含まれているほか、今回新たに得られた標本との比較から、かつて当該海域において行った調査で得られたカイアシ類の中に、熱帯性であると考えられた種も見いだされた。これらに加え、比較調査海域における熱帯種の探索も予備的に実施できたことから、野外採集の成果としては十分過ぎるものと考えている。得られた標本に基づき、記載論文の執筆も進行中である。 また、これまで実施してきた野外調査から見いだされたカイアシ類の多くは、本邦から未記録の種であるが、これらが近年分布を広げた種であるか確かめるためには、それぞれの種の実際の分布海域まで明らかにする必要がある。このため、該当海域における野外調査を徹底して行う必要があるが、既に当初の想定の範囲を超える数のカイアシ類が得られており、その同定作業に割く負担の割合が予想以上に膨らんでいる。研究の進捗が遅れているという状況には当たらないが、当初予定していた研究方針を若干変更しつつ実施を継続している現状にあるため、上記の区分にあたると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本邦における寄生性カイアシ類相の研究が本格的に進められたのは1900年代中旬であり、当時と比べて魚類の分布にも変動が起こりつつあるようである。特に、前述のように例えば、北海道沿岸ではこの10数年でブリが漁獲されるようになったりと、温帯および熱帯性魚類の北進は劇的に現在進行している。このことから、熱帯性寄生性カイアシ類の分布域の変動は南日本に限定した現象ではなく、日本全体規模で直面する問題である可能性が懸念され始めてきた。こうした現状を受け、特に多くの熱帯性寄生性カイアシ類が真っ先に侵入すると考えられる南日本における寄生性カイアシ類の分布調査は、今後も継続して実施する必要がある。また黒潮の流路についても毎年全く同一ではなく、変動が年ごとに出現するの熱帯生物の出現状況にも影響を及ぼしている。つまり、当初の予定では本研究プロジェクト最終年度には、これまで得られたカイアシ類の種同定と記載報告、それを踏まえての有害種の選別、さらには分布を拡大した熱帯種であるかの推定、つまりは主にデータのとりまとめに時間を割く予定とし、野外調査はあくまでも補足的に実施する予定としていた。しかし、上述の理由から特に琉球列島北部や九州本土南部における野外調査は、最終年度においても、これまでに実施した調査から効率良く実施できる場所いくつかに絞った上で、実施をする。また、作業的に余裕があれば、これまで調査を実施していない南日本よりも北の海域における調査や、分類研究を実施するために必要な比較標本の採集をおこなうための海外調査も、他作業とのバランスを考えた上で実施したい。これらを踏まえて、本プロジェクト開始時に掲げていた目標を遂行し、さらには将来的なプロジェクトへの布石として、自然界で起こっている熱帯性有害寄生性カイアシ類の分布変動についての一般的な理解を少しでも深めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
DNA実験に用いるデイープフリーザーや、野外調査に用いる潜水調査機材への支出を予測していたが、他の研究プロジェクトで緊急的に必要性が生じたため本財源での購入は行わなかった。また、予備的に実施した野外調査の一部についても他財源で実施したり、台風等天候の影響等で実施自体取りやめとなったものが存在した。 これらについては、元々参加予定をしていなかった寄生性カイアシ類の国際ワークショップへ参加し、本プロジェクトの成果の一部の発表へ充てるほか、野外調査を当初より多く実施する財源とする。また、寄生性カイアシ類の生鮮時の標本撮影をより高いレベルで実施するための撮影機材や記載図作成用描画器材購入費へと充てる予定である。
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